研究課題/領域番号 |
22KJ1935
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小原 乃也 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 腸管病原性大腸菌 / Citrobacter. rodentium / IL-23 / 樹状細胞 / GALT / 3次リンパ組織 / Notch2 / レチノイン酸 |
研究実績の概要 |
腸管病原性大腸菌は大腸に感染することで、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こす原因菌である。この感染症は重症化することも多く、感染した子供や高齢者が死亡に至るケースも少なくない。これら症状の重篤化を防ぐために、腸管に感染した細菌を排除するための詳細な免疫反応を解明することが期待される。 本研究の2023年度の成果として腸管病原性大腸菌の排除の起点となる炎症性サイトカインであるインターロイキンー23(IL-23)を産生する樹状細胞の一群を発見した(Ohara et al, J Exp Med, 2024)。研究代表者は、独自にIL-23産生細胞を可視化する遺伝子組み換えマウスを開発し、腸管病原性大腸菌排除に重要であるサイトカインIL-23を多量に産生する新しい樹状細胞集団を同定した。この樹状細胞は免疫細胞が多く存在する腸管の絨毛や陰窩ではなく、腸管関連リンパ組織という構造に分布していることが明らかになった。さらに、この樹状細胞のIL-23産生機能の獲得にはNotch2及びビタミンAシグナルが必須であった。本研究は、腸管病原性大腸菌感染から体を守ることに特化した樹状細胞の発生や分化に関わる重要な知見を提供し、腸管病原性大腸菌感染の新規治療・予防法の開発の一助となると考えられる。 さらに、IL-23は病原性大腸菌だけでなく、真菌や黄色ブドウ球菌などの日和見感染に加え、発展途上国で重大な問題となっている結核感染症の感染防御にも重要なサイトカインである。また、感染症だけでなく、IL-23は乾癬や炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の原因にもなっている。本研究で開発したIL-23レポーターマウスはこれらの病態の理解を促進させる有望なツールになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は定常状態や感染防御におけるIL-23産生樹状細胞(cDC)の特徴・局在・分化や活性化に必要な因子を明らかにした。研究代表者はIL-23産生細胞を可視化する新しいレポーターマウス(IL-23Venus mice)を開発することに成功した。レポーター遺伝子(Venus)が異所性発現を示すことは確認されず、このマウスがIL-23の発現を高い信頼性を持って可視化していることを示した。このマウスを用いて、腸管に存在するIL-23産生樹状細胞は、(1)表面マーカーDCIR2+ EpCAM+ CD103- CD11b- で定義されること、(2)絨毛や陰窩ではなく、腸管の3次リンパ組織と呼ばれる構造に局在すること、(3)発生にNotch2及びレチノイン酸シグナルが必須であること、を明らかにした。以上の成果を国際雑誌Journal of Experimental Medicineに発表し、また、ギリシャの国際サイトカイン学会や日本免疫学会で発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は自己免疫疾患におけるIL-23産生細胞についてIL-23レポーターマウスを用いて明らかにする。具体的には、乾癬・乾癬性関節炎・炎症性腸疾患・多発性硬化症のマウスモデルを使用する。これらのマウスモデルはすべてIL-23依存性に病気が発症するモデルであり、実臨床との相関も認められる。これらのモデルとIL-23レポーターマウスを用いて、それぞれの病気でどのような細胞がIL-23の産生源であるかを明らかにする。IL-23レポーターマウスで最もIL-23を産生している細胞が確認できれば、その細胞で特異的にCreを発現するマウスとIl23a-floxマウスを交配することで、特異的欠損マウスを作成する。このマウスに自己免疫疾患を誘導し、病気に対する抵抗性を評価することで、IL-23レポーターマウスで特定したIL-23産生細胞の病態病理への寄与を評価する。最後に、それぞれの自己免疫疾患におけるIL-23産生細胞を比較することで、IL-23と共同してT細胞を活性化せることでぞれの病気を悪化させるCo-factorsを同定することを目指す。
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