研究課題/領域番号 |
22KJ1939
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
志田 夏美 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | ウズベク牧畜民 / 絨毯 / 生活誌 / 遊牧 / 伝統 / 民族誌展示 / ユルタ(移動式住居) / 手工芸品 |
研究実績の概要 |
本研究は、ウズベキスタン共和国の主幹民族の一部でありながらも、その歴史的背景から光が当てられにくくなっている「ウズベク牧畜民」の現代的状況を明らかにするものである。とりわけ遊牧民の伝統的な物質文化とみなされている絨毯を軸に生活誌を描くことで、同国における遊牧文化と伝統の位置づけをさぐる。当該年度は、前年からつづく長期フィールドワークにて次の課題を遂行した。 【A】家内工業による絨毯作りと生活実践に関するデータの採集。主にスルハンダリア州ボイスン郡の山村にて参与観察を重ね、絨毯作りや原料の供給、製品の消費・流通等に関する通年的なデータを得た。成果(ロシア語)として、①現地学会要旨集における中間報告、②移動式住居のユルタと絨毯製品に着目した論文、③ウズベク牧畜民の自家製礼拝用絨毯に着目した論文を現地受入研究機関を通じて投稿した。 【B】物質文化にみるウズベク民族のイメージに関するデータの採集。6つの博物館と「ナウルーズの祭典」の2つの会場の展示品調査および関係者に対する聞き取り、手工芸職人6名の工房の見学と聞き取りをおこなった。成果発表にむけて準備中だが、これらの採集データからは調査地域の手工芸の現在の状況が明らかになり、遊牧文化的基盤や伝統の動態に関する示唆を得た。 【C】中央アジア絨毯の博物館所蔵状況と標本に関するサーヴェイ。主要な標本収集者の文献を精読し、標本の生産地とエスニシティについて分析した。近く国内学術雑誌に再投稿するための原稿を準備した。 【D】現地語文献の渉猟・読解。とりわけウズベクの部族構成に関する文献は重要で、現地住民からアイデンティティに関わる聞き取りをおこなうためにも役立っている。これらのデータの分析は、博士論文の構成に不可欠なものである。 以上、当該年度は、ウズベク牧畜民の生活と絨毯を含む手工芸の現在的状況を明らかにする調査と発表をおこなうことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の報告書でもふれたように、上記【B】に関して、研究計画を立案した当初は、全国的に博物館や郷土資料館を踏査し、展示構成や所蔵資料をつぶさに調査するつもりであったが、ホスト国の制度や規範的な制約からこの計画が現実的でないことが判明した。また、大統領令で示唆されていた手織り絨毯復興プロジェクトに関する展示イベントについても、情報収集を試みたが、今のところいかなる情報も得られておらず、残念ながらその実態はないと判断した。よって、これらに代わる調査を行うべく、主要都市にある博物館展示と、各地区の行政主導で開催される「ナウルーズの国民祭典」および「ボイスン・バホル」の会場に設営される展示の調査をおこなうことに研究遂行計画の一部を変更した。博物館調査に関しては、前年度までの調査を含めると、すでに大半の対象博物館を訪問できたが、その収集データは未整理である。近いうちにデータを整理し、未訪問および再訪問が必要な対象博物館を明らかにし、さらなるデータ収集と整理・分析をおこないたい。 上記【A】に関しても同様に、ホスト国側の制限により、当初の計画よりも滞在できる日数が少なくなってしまった。一方で、インフォーマントの協力のおかげで、直接見聞きできなかった内容は後日、写真や口頭による情報提供を受けたり、しかるべく人物をスムーズに紹介してもらったりと、データの採集活動はおおむね順調におこなえている。しかし、絨毯織りに関する具体的な作業データの採集はいまだ不十分なところがある。 これまで国外フィールドワークを中心にすすめてきたため、全体的にインプットの比重が高く、アウトプットの活動が後手に回ってしまっているが、フィールドデータの採集と文献読解については概ね順調にすすんでいる。次年度より積極的に成果発表をおこなえるよう、データの整理・分析を順次すすめていく。
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今後の研究の推進方策 |
国外フィールドワークは引き続き約半年間おこなう予定で、「ボイスン・バホル」(5月開催)や未訪問博物館の調査、絨毯織りに関する不足データの採集に努める。とくに数種ある絨毯織り技法のうちまだ直接観察できていない技法や整経作業の一部始終を観察する機会を得るために、インフォーマント数名に発注生産を依頼することを検討している。調査村の作り手は、基本的に自家用に絨毯を織るため、バザールなどに製品を売りにだすことはないものの、主に家畜の放牧管理を担当する牧人などからの発注生産を請負うことはある。類似の方法をとれば、現地社会の経済を壊すことなく、整経作業と織り工程の記録をおこなう機会を得ることができると見込んでいる。 また最終年度である次年度は、アウトプットの活動に力を注ぐ方針である。具体的には、上記【A】でふれたロシア語の成果②③の下書きとして作成した日本語原稿を加筆・修正し、国内の学術雑誌に投稿する予定である。同様に、上記【B】でふれた「ナウルーズの国民祭典」の展示に関するデータについても、その整理・分析をおこない、国内の学術雑誌へ投稿する。これらの原稿準備は5~7月頃の完了を目指している。また、現地の大学からの招待講義もしくは学会等でも研究報告をおこなう手はずになっている。さらに、9月にフィールドワークを終えて帰国した後は、国内で精力的に口頭発表を重ねたいと考えている。成果発表を通じて、さまざまな分野の研究者から批判や意見をもらうことで議論の深化に努め、博士論文の執筆と完成を目指していく。
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