研究実績の概要 |
細胞競合とは、単独では生存可能な2つの細胞集団が同じ組織内に混在すると、片方の細胞集団のみが選択的に組織から排除される現象である。これまでにいくつかの遺伝子の変異が細胞競合を誘導することが報告されているが、細胞競合の生理的なトリガーは殆ど分かっていない。本研究では、大規模な遺伝学的スクリーニングにより単離された細胞競合誘導性の変異体(敗者変異体)について、次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行い、責任遺伝子を同定することで細胞競合の生理的トリガーを推定することを目指した。その結果、3つの敗者変異体の責任遺伝子としてGliotactin(Gli), nervana2 (nrv2), CG6443を同定した。Gliは三細胞の接着点であるトリセルラージャンクションの構成因子であり、ショウジョウバエの上皮バリアを担うセプテートジャンクション(SJ)に必要な遺伝子である。nrv2はNa+/K+ ATPaseのβサブユニットであり、ショウジョウバエにおいてはSJの構成因子である。セプテートジャンクションの形成・機能に関わる2つの遺伝子の変異が細胞競合を起こすこと、また細胞競合のモデルの一つであるscribbleもSJに必要な遺伝子であることから、SJの異常が細胞競合の生理的トリガーとなることが推定された。CG6443は哺乳類・酵母のRTF2のショウジョウバエホモログである。哺乳類ではRTF2はレプリソームにRNaseH2をリクルートすることで、DNA複製時に誤って取り込まれたリボヌクレオチドを除去し、DNAダメージを防ぐことが報告されている。ショウジョウバエ上皮に誘導したCG6443変異細胞クローンではDNAダメージのマーカーであるγH2Aが増加していたことから、ショウジョウバエのCG6443も同様の機能を持つこと、またDNAダメージが細胞競合の生理的トリガーとなることが示唆された。
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