研究課題/領域番号 |
22J22705
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇野 孔起 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | FBOT / 潮汐破壊現象 / 相互作用超新星爆発 / 偏光分光観測 |
研究実績の概要 |
急激な光度変動を示す新種の突発天体FBOTやTDE、相互作用超新星など、従来の超新星とは異なる性質を持つ特異な天体現象を研究している。 FBOTの観測的特徴は超新星とは全く異なる。その特徴を包括的に説明するべく、中心エンジンにより駆動された爆発的質量放出が可視放射を形成するという解析的モデルを以前考案した。本モデルに時間依存性を取り入れることで、FBOTの大きな特徴の一つである急激な増光段階の説明にも成功した(Uno & Maeda 2023c)。さらに、本モデルの妥当性を検証するべく、すばる望遠鏡に対し偏光分光観測を提案し、採択された。FBOT・TDEの性質に迫るべく、系の物理的性質が強く反映される偏光の情報を用いて我々が考案した放射モデルの観測的側面からの検証を試みている。 偏光の手法は他の系にも有効である。申請者は、白色矮星の爆発と周囲環境が相互作用するIa-CSM型超新星2020uemという特異な天体に対して、すばる望遠鏡の偏光分光・測光・分光観測を行い、Ia-CSM型超新星の中で最大規模のデータセットを得た(Uno et al. 2023a, b)。この結果は、これまで定性的にしか議論されていなかったIa-CSM型超新星の周囲環境に対して、物質の質量や構造を初めて定量的に制限することに成功し、Ia-CSM型超新星は白色矮星と恒星の合体現象である可能性が示唆された。 さらにFBOT・TDE・相互作用超新星を研究する中で、突発天体のスペクトルの多様性にも興味を持った。スペクトルには系の爆発メカニズムが強く反映されるため、未知の突発天体の性質へ迫る鍵となる。蓄積された大量の超新星スペクトルデータに対し機械学習を適用し、超新星の再分類を行った。申請者は天体スペクトルを用いた突発天体全般の描像の見直しも行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、Fast Blue Optical Transient(FBOT)をはじめとする、特異な突発天体について、理論・観測の両面からアプローチし、その起源を解明することが大目標である。 昨年度は、当初の目標であった、FBOTの光度曲線モデルを考案し、FBOTの特徴の一つである急速な増光段階の説明に成功した。この結果をまとめ、主著論文として出版した(Uno & Maeda 2023c)。さらに、すばる望遠鏡HSCで見つかったFBOT候補天体の光度曲線について、我々のモデルに基づいた理論解釈をつけた。この結果は共著論文として出版された。また、これらの成果について、国際学会で二度口頭発表を行った。 また、FBOTを探す過程で見つかった特異な超新星SN2020uemについて、すばる望遠鏡・せいめい望遠鏡・かなた望遠鏡を用いて追観測を行った。この結果、SN2020uemは白色矮星とAGB星の合体現象である可能性が示唆された。この結果は、二本の主著論文として出版された(Uno et al. 2023a, b)。この結果について、国際学会で一度口頭発表を行った。 さらに、すばる望遠鏡に対し、FBOTとの関連が示唆されている潮汐破壊現象のTarget of Opportunity(ToO)観測を提案・採択された。現在、潮汐破壊現象のToO観測をスタートさせ、データ収集を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は流体計算コードを開発し、流体プロファイルから電波放射強度を推定する。電波強度は衝撃波面で相対論的に加速された荷電粒子によるシンクロトロン放射から見積もり、計算コードは申請者自ら開発する。センチ波からミリ波までの幅広い周波数帯を計算し、電波干渉計ALMAやVLAを用いたFBOTの観測可能性を提示し、論文として出版する。せいめい望遠鏡を用いたFBOT・TDEの追観測も継続して行う。FBOTのX線強度を様々なBH質量・質量降着率について推定する。来年度はFBOTのX線放射を見積もる。FBOTのX線放射は中心天体の降着円盤に由来すると考えられており、爆発的質量放出で放出されたガスによる吸収・散乱を受けつつ観測者に届く。初年度に得られた流体プロファイルを利用してX線の輻射輸送を計算し、実際に観測されたX線強度・時間変動を達成するような中心部の吸収補正後のX線強度を推定する。この結果から、fallbackaccretion・FailedSNがFBOTとなり得るか検証する。そしてFBOTが恒星質量BH形成の観測的証拠となり得るか議論する。本計算には初年度に購入した計算機を用いる。また、FBOTの観測も継続して行う。最終年度であるため、成果を論文として出版すると共に、国内外の研究会やセミナー発表に現地参加し、一連の研究成果を積極的に発信する。さらに、海外での情報収集結果や議論を踏まえて今後の研究方針を決定する。
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