研究課題/領域番号 |
22J23235
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
司 悠真 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 神経ペプチド / 神経調節 / 侵害性伝達 / ショウジョウバエ / 逃避行動 / 感覚統合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、様々な環境ストレスを統合し、逃避行動を調節する神経回路基盤と細胞生理メカニズムを明らかにすることである。われわれは、ショウジョウバエ幼虫の腹部ロイコキニン産生ニューロン(ABLKニューロン)が体液浸透圧依存的に侵害性刺激を伝達すること、そしてABLKニューロンの浸透圧応答にはGPIアンカー型タンパク質であるBelly rollが必要であることを、明らかにしてきた。本年度は、ABLKニューロンの浸透圧応答に必要な神経伝達物質受容体の同定を行なった。具体的には、ショウジョウバエ幼虫中枢神経系の一細胞RNA-seqの公開データを解析し、ABLKニューロンが神経ペプチド受容体の一つで、哺乳類のもつソマトスタチン受容体のホモログであるアラトスタチンC受容体(AstC-R2)を発現することを突き止めた。さらにRNA干渉法を用いてAstC-R2の機能を阻害したところ、ABLKニューロンの浸透圧応答が消失することが明らかになった。先行研究でABLKニューロンの持続的な神経活動にセロトニンが影響することが報告されていたが、セロトニン受容体は低浸透圧条件下での持続活動に必要ではなかった。これらの研究結果から、アラトスタチン産生ニューロンが浸透圧に応答し、ABLKニューロンのAstC-R2を活性化することでABLKニューロンの浸透圧依存的な侵害性応答を可能にしていると考えられる。現在、浸透圧に応答するアラトスタチンC産生ニューロンを探索し、候補ニューロンの絞り込みを行なっている。また、Belly rollとAstC-R2が極めて類似した機能をもつことから、両者が物理的に相互作用する可能性についても検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の研究により、アラトスタチンC受容体(AstC-R2)がABLKニューロンの体液浸透圧依存的な神経活動に必要であることを明らかにできた。また、ABLKニューロンに浸透圧情報の入力を行なっている上流ニューロンの探索も進めており、既にいくつかの候補ニューロンを同定している。興味深いことに、そのうちの一つは低酸素ストレスと酵母臭という異なる環境情報に応答することが報告されているニューロンである。この予備的な調査の結果は、われわれの想定外にも、逃避行動が体液浸透圧だけでなく低酸素ストレスと酵母臭によっても調節される可能性を示唆している。このニューロンの生理特性について詳細に研究することで、当初想定していた体液浸透圧だけでなく、多様な環境要因によって柔軟に逃避行動が調節されるメカニズムについての理解が大きく進展すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ABLKニューロンの上流ニューロンを特定するため、カルシウムイメージング法を用いて浸透圧に応答するアラトスタチンCニューロンを探索する。さらに、同定した候補ニューロンとABLKニューロンとのシナプス接続の有無を検証する。これに加えて、Belly rollとAstC-R2が物理的に相互作用するかどうかについても検証を進める。また、乾燥ストレスなど体液浸透圧を上昇させることが期待される環境ストレスにショウジョウバエ幼虫を暴露し、逃避行動が亢進されるかどうかを検証する。
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