本年度は(A)前年度の研究を継続し、(B)研究手法を見直した。 (A)(1)国際法上の他者の違法行為に対する責任(間接責任)に関するILC法典化の研究、(2)国際機構権限の一般理論研究、(3)特定の機構権限の研究を並行した。(1)はILC法典化の内在的批判、(2)(3)は外在的要素を用いたILC法典化の相対化作業である。(1)につき、ILC国家責任条文第一読案28条と国際機構責任条文(ARIO)61条を参照点とし、その作成過程や関連判例、先行研究を分析した。結果、間接責任の判断様式が類型化され(代位責任、相当の注意、同等の保護の各範型)、様式選択を左右する諸要素(違法行為主体の裁量、機構設立時の国家意図、設立と違法行為の時間的懸隔、機構の一般的自律性、機構任務と被違背規範各々の価値の衡量等)が同定された。(2)につき、先行研究における権限論の一般的記述は、諸機構の諸権限の陳列とその模糊とした分類に留まることが分かった。機構権限は各設立文書の解釈と実行に依るので当然だが、なお一般理論を可能にするためには、法意識論(法的議論において「機構」概念がどう理解・利用されているか)の水準が必要であると考え至った。(3)につき、帰納的研究としてICCを取上げた。補完性や管轄権性質論等の諸論点に共通の言説構造が看取され、かつそれを上述の法意識の帰結として論じ得ることが分かった。 (B)上記(2)(3)により、機構権限と加盟国責任を論ずるには、ARIO作成時にILCが度外視した「国際機構とは何か」という問題に、定義問題としてではなく、法意識の問題ーそれは定義問題を包摂するーとして取り組むべきことが分かった。そこで方法論を見直すため、機能主義や(狭義の)立憲主義といった機構法研究のパラダイムに関する先行研究の整理と把握を行った。 *受入研究機関外での学籍取得に伴い2023年9月末日付で本職を辞した。
|