研究課題/領域番号 |
22J23667
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
繰納 民之 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 鉄器 / 鍛冶関連遺物 / 古墳時代 / 副葬 / 生産 / 流通 / 系統 / 製作技術 |
研究実績の概要 |
2022年度は、副葬品および鍛冶関連遺物の研究を進めた。いずれの研究も、①研究対象資料の集成②資料調査③分析・考察というサイクルで行った。 副葬品研究:①の集成については、博士課程で新たに検討対象とした鉄製武器(鏃・鉾)の集成を行った。②の資料調査については、近畿(兵庫・京都・大阪・奈良・滋賀)、山陽(岡山)、九州(福岡・熊本)、東海(岐阜)で熟覧・実測・撮影を行い、修士課程で扱っていた鉄製農工漁具の研究を補完しつつ、新たに検討対象とした農具(サルポ)、鉄製武器(鏃・鉾)の検討を進めた。その結果(③)、古墳時代前・中期の農工漁具の分類・編年・系統については、おおむね構築が完了した。また農工漁具の流通・副葬様相を検討した結果、地域・古墳群ごとに副葬される農工漁具の系統が異なること、各地域・古墳群で副葬される農工漁具の系統やその継続・断絶・更新の在り方が、他の器物の副葬傾向と連動する事例があることを明らかにし、当該期の地域・集団間関係を考える重要な視座となり得ると認識した。 加えて、舶載品として捉えられてきたサルポの系統分類を行い、一部の系統のサルポについて、列島内の農工具生産との関わりが見込まれた。鉾についても断面・側面形状をもとに既存の型式分類を再構築し、地域・古墳群ごとに鉾副葬が認められる時期や型式・組成が異ななることを明らかにし、他の鉄器の入手様相との連動性を認めた。 鍛冶関連遺物研究:①の集成については、近畿の資料を対象にして行った。②の資料調査は、主に近畿(兵庫・大阪・奈良)において、羽口・鉄滓・砥石の熟覧・実測・撮影・計量を行った。その結果(③)、羽口・鉄滓の分類や定量的な評価方法をある程度構築することができた。また、その方法論を用いて奈良の鍛冶関連遺物を検討し、奈良盆地内の鍛冶技術の地域性・系統差や遺跡ごとの操業様相の復元を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
副葬品研究については、サルポの検討結果を「和泉・経塚古墳出土遺物調査報告」で一部公表し、鉾の検討結果(東海地域のみ)を2023年度刊行予定の各務原市熊田山北古墳群の報告書内で一部公表予定である(タイトル:武器・農工具からみる熊田山北B1号墳の性格と美濃の鉄器副葬)。また、淀川水系の農工具副葬に関する検討結果を「天野川流域の前・中期古墳の特質-出土鉄器に着目して-」で一部公表した。 鍛冶関連遺物研究については、布留遺跡の検討結果を「布留遺跡の鉄器生産の様相」、南郷遺跡群の検討結果を「南郷遺跡群出土鍛冶関連遺物の検討(その1)」、森遺跡の検討結果を「交野・枚方市域の鍛冶操業の特質-鍛冶関連遺物に着目して-」で一部公表している。また、奈良盆地における布留遺跡の鍛冶操業の位置付けについては、2023年度の第89回日本考古学協会でも公表予定である(タイトル:鍛冶関連遺物からみた布留遺跡の鉄・鉄器生産組織)。 以上のように、個別遺跡・地域の資料報告を通じて各研究を進展させ、また研究内容をコンスタントに公表することができた。一方で、修士課程から継続している鉄製農工漁具の研究成果の査読論文投稿が予定よりも遅れており、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
副葬品研究については、論文化可能な水準まで達している農工漁具の研究成果の、迅速な査読論文投稿を第一目標とする。論文は、①「斧の分類・編年」と②「農工漁具の総体的な編年・系統」の2本にまとめる予定である。①の論文化にあたっては、斧の製作工程論などについて検証が不十分な点があるため、製作実験を行うことで実証性を高める。農工漁具の流通・副葬様相についても、近畿中枢部を中心に、分析に良好なフィールドを模索しつつ事例研究を重ね、当該期における副葬鉄器を媒介とした集団間関係論の構築を目指す。 また2022年度から新規に研究を進めている鉄製武器(鏃・鉾)についても、資料調査を本格化し、農工漁具と併行して検討を続ける。 鍛冶関連遺物研究については、前年度研究を行った奈良につづき、大阪・兵庫の集落遺跡から出土した資料(羽口・鉄滓)の研究を進め、各遺跡の鍛冶操業の復元および遺跡間の鍛冶技術の系統差の抽出を試みる。とくに、大県遺跡・森遺跡など、鍛冶操業の拠点となった遺跡の悉皆的調査・実態把握を優先する。さらに、羽口の機能や鉄滓の生成過程について理解に不十分な点があるため、当該期の鍛冶の復元操業実験を行い、実証性を高める。
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