研究課題/領域番号 |
22KJ2020
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
勝野 峻平 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | フォトニック結晶レーザ / フォトニック結晶 / 半導体レーザ / 熱マネジメント / 金属加工 |
研究実績の概要 |
既存の半導体レーザは,小型・安価・高効率・高制御性をいった特長をもつ一方で,高ビーム品質を維持可能な光出力に限界があり,レーザ加工用光源としての応用が困難であった.本研究は,2次元フォトニック結晶をレーザ共振器として利用することで既存の半導体レーザの課題を解決可能としたフォトニック結晶レーザについて,上記応用を目指し,連続的な電流注入による動作(CW動作)における熱マネジメントおよび高出力・高ビーム品質動作(=高輝度動作)を実現することを目標としている. 昨年度までに,エルミート性/非エルミート性に基づくフォトニック結晶の光回折効果の高度な制御により,半導体レーザとして極めて大面積である直径3mmにおいて高輝度動作が期待できる設計を行った.また,光加工に必須なCW動作(発熱の影響を大きく受ける動作状態)においても高ビーム品質動作を維持するための工夫として,温度上昇に伴って生じるフォトニック結晶の不均一性を打ち消すように,フォトニック結晶の空孔周期にあらかじめ面内分布を与える温度補償構造を考案,設計した. そして,本年度には,先述の設計を導入した直径3mmのPCSELを作製した.作製した素子をCW駆動において冷却するために冷却治具へ実装したうえで,CWレーザ発振特性を評価したところ,最大で50Wを超える光出力を達成し,同時に,単一モード動作による極めて狭い拡がり角(~0.05°)が得られた.その結果として,PCSEL単一素子により,既存の大型高輝度レーザに匹敵する輝度1GWcm-2sr-1を達成することに成功した.また,このような高輝度PCSELの金属加工への応用も試み,金属板の切断加工の実証にも成功した. 本成果に関する論文は,英学術誌Natureに掲載されるとともに,日米独仏などの20誌を超える新聞・雑誌で報道された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,フォトニック結晶レーザの電流・熱・光の相互作用を考慮した総合的な熱マネジメントにより,半導体レーザ単一チップによる100 W超級高輝度CW動作を目標としている.本目標の達成に向けて,主に,1)実装・放熱技術の確立,2)面内温度分布補償構造の設計,3)面内温度補償構造の試作・深化,の3点に取り組んできた.昨年度は,活性層の十分な内部量子効率・利得を維持するための実装・放熱技術の確立,CW動作(発熱の影響を大きく受ける動作状態)においても高ビーム品質動作を維持可能とするための面内温度補償構造の設計を行った. 本年度は,実際に,CW動作において高ビーム品質動作が期待できる直径3mmのフォトニック結晶レーザを開発し,50WのCW光出力かつ単一モード動作による~0.05°という極めて狭い拡がり角を達成した.その結果,フォトニック結晶レーザ単一素子により,既存の大型レーザに匹敵する高い輝度1GWcm-2sr-1の実現に成功した.さらに,このような高輝度のフォトニック結晶レーザの金属加工への応用を試み,金属板の切断加工の実証にも成功した.以上のように,3)面内温度補償構造の試作・深化,さらに金属加工応用の実証まで取り組めたことから当初の計画以上に進展していると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,注入電流あたりの光出力の伸び(=スロープ効率)の増大の手法の検討を行う.スロープ効率の増大は,金属加工だけでなく,LiDARセンシングや自由空間通信といったPCSELの幅広い応用において重要と考えられる.これを実現する手法として,複数の活性層をトンネル層を介して接合した層構造(複数接合活性層)の導入を検討する.本構造により,デバイスに注入される電子正孔対あたり(注入電流あたり)放出される光子の数が増大し,スロープ効率増大が可能となる. まずは,発熱の影響を無視できるパルス駆動においてスロープ効率増大の実証に取り組み,その後のCW駆動(発熱の影響を受ける動作状態)におけるスロープ効率増大の実証につなげる. また,層構造や共振領域サイズに応じて,共振領域全体への均一な電流注入を可能とする電極構造の設計を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(令和5年度)は,既存のリソースを用いた実験及び,研究室で共用のコンピュータを用いた理論検討に重点をおいたため,当初の計画よりも使用額が減少した. 次年度(令和6年度)は,新たなデバイス層構造を試作・評価する際に,下地膜(=ウエハ上に所望の組成・ドーピング密度で半導体膜を形成したもの)を外注する場合に繰り越した研究費を用いる.また,作製デバイスの大型化(直径3mmから直径10mm)に伴う測定系の再構築のために,従来よりも大型のレンズやハーフミラーといった光学素子の購入にも繰り越した研究費を充てる予定である.
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