研究課題/領域番号 |
22J40123
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石川 規子 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 光合成 / C4植物 / 光合成電子伝達系副次経路 / NADHデヒドロゲナーゼ様複合体 / ATP |
研究実績の概要 |
2022年度は、C4植物フラベリアのNDH抑制株を材料に、弱光条件で栽培した際の表現型の確認及び観察される表現型とATP生成能との相関性の検証、NDH抑制株におけるATP生成能の低下を検証するための形質転換植物の作成を実施した。 研究開始後まず、先行研究で報告された、フラベリアのNDH抑制株を弱光条件で栽培した場合の表現型、すなわち光合成能力の低下や生育遅延について再現性を確認した。その結果、葉のタンパク質量やクロロフィル含量の低下、生育の遅延を確認することができた。そこで、NDH抑制株においてATP生成能の低下が見られるか、葉抽出液中のATPの蓄積量を測定した。しかしながら、野生株とNDH抑制株の間で差を認めることは出来なかった。 最新のシロイヌナズナを用いた先行研究において、光照射下で光合成電子伝達に由来する葉緑体のATP濃度は、ミトコンドリアの電子伝達に由来する細胞質のATP濃度の4分の1以下であることが報告されている。従って、葉全体からの抽出物を用いた測定では、NDHを介した光合成循環的電子伝達に由来する葉緑体内のATP濃度差を検出するのは困難と考えられた。 そこで、生きた細胞内で葉緑体局所的なATP濃度を検出する方法へと計画を変更した。具体的には、細胞内のATPと結合することでFRETシグナルを生じることによりATP濃度を検出することのできるATPセンサータンパク質を、フラベリアの野生株及びNDH抑制株の葉緑体で過剰発現させ、光照射後のFRETシグナルを共焦点顕微鏡で観察を行う。2022年度中はATPセンサータンパク質の遺伝子発現ベクターを完成させ、アグロバクテリウム法によるフラベリアへの導入をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NDH経路を抑制したC4植物フラベリアにおいて、CO2濃縮反応の駆動に必要なATPの生成能が低下していることを明らかにするため、葉の抽出物におけるATP蓄積を測定して、野生株と比較することを計画していた。しかし、両者でATP蓄積量の差を検出することは出来なかった。シロイヌナズナを用いた最新の知見から、葉緑体では、光合成電子伝達により生成されたATPは炭酸固定ですぐさま消費され、定常状態でのATP濃度が細胞質に比べて低く保たれることが明らかとなった。このためNDH経路に由来する葉緑体内のATPを、葉全体の抽出液から検出することは困難であると考えられた。そこで、より研究の目的に合致する方法、すなわち、ATPセンサータンパク質をNDH抑制株の葉緑体で発現させて葉緑体内のATP濃度を直接検出する手法へと計画を変更するに至った。 また、当初の計画では最適光と弱光の2条件で植物を栽培して、様々な比較を行う予定だったが、年度途中で最適光での栽培に用いる予定だったインキュベーターが故障した。当該インキュベーターは2001年製で部品在庫がなく、可能な限りの修理を行ったが、結局、年度内に復旧することは出来なかった。また新機種の購入は、受入研究者ともよく相談したが、高額のため実現は難しいとの結論に至った。このため予定していた実験が実施出来なかった。 上記の理由により、当初の予定に比べて、研究の進捗はやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究はインキュベーター復旧の目処が立たない、という問題点を抱えている。そのため、今後は十分な大きさに植物を生育させる必要のある実験を減らし、シャーレで育てた植物で可能な実験に比重を移していく。ATPセンサーを導入した形質転換体の確立とそれを用いた葉緑体内のATP濃度を反映するFRETシグナルの検出は、いずれもシャーレまたはアグリポットで生育させた植物で実行することが出来る。この他、シャーレで育てた植物を使う利点として、培地への糖添加によりNDHの抑制による生育不良を補うことが可能な点が挙げられる。これにより生育不良に伴って生じる光化学系IIの活性低下など、葉緑体におけるATP生成能の低下を引き起こす二次的な要因を排除し、NDH経路の抑制が直接に及ぼす影響を明確化することが出来る。 フラベリアの形質転換体の確立には3~6か月とやや長めの培養期間が必要だが、その間は、シロイヌナズナのATPセンサー発現株やアグロバクテリウムのインフィルトレーションによるフラベリアの一過的過剰発現株を用いて、共焦点顕微鏡を用いたATPセンサータンパク質のFRETシグナル検出に必要な条件検討をおこなう予定にしている。 また、葉緑体内で生成されたATPが炭酸固定経路ですぐに消費されてしまうと、光合成電子伝達によって生成されるATPの濃度を検出することは困難となることが予想される。この問題に関しては、炭酸固定経路の阻害剤を用いることでATPの消費が抑制されることがシロイヌナズナの先行研究で報告されている。この手法をフラベリアに適用するための条件についても、形質転換体を確立するための培養期間中に検証する予定である。
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