研究実績の概要 |
本研究は、報告者の先行研究によって強く示唆された、C4光合成に必要なATPの生成には、光合成電子伝達の副次的経路を担うタンパク質複合体、葉緑体NADHデヒドロゲナーゼ様複合体(NDH)が不可欠であるという仮説を、C4植物の野生株とNDH経路抑制株でATPの蓄積や生成能の比較をおこなって、より直接的に検証し、NDH経路がC4光合成で果たす機能を分子生物学的・生化学的に解明することを目的に行われた。 研究最終年度となった2023年度は、先行研究で作成済みであったキク科C4植物フラベリア(Flaveria bidentis)のNDH抑制株と野生株のそれぞれに、FRETにより細胞内のATP濃度を検出することのできるATPセンサータンパク質、AT1.03の葉緑体発現コンストラクトを導入し、野生株とNDH経路抑制株のATPの生成能をin vivoかつin situで観察することを試みた。しかし、年度内に安定形質転換を得るには至らなかった。 2023年度は、より迅速に導入遺伝子の効果を観察することのできる、フラベリアの葉肉細胞プロトプラストを用いた一過的過剰発現系の確立にも取り組んだ。シロイヌナズナのテープサンドイッチ法(Wu et al., 2009)に倣ってフラベリアの葉肉細胞プロトプラストを単離し、PEG法によりGFP過剰発現コンストラクトを導入した。その結果、発現頻度は低いものの、GFP過剰発現コンストラクトを導入したフラベリア葉肉細胞プロトプラストでGFP蛍光を観察することができた。今後、ベクターやプロトプラストの調整方法の最適化し、コンストラクト導入効率を向上させることにより、シロイヌナズナなどC3植物に比べて安定形質転換体を得ることに時間のかかるC4植物を研究する際の有効な手法となる可能性が見出された。
|