研究課題/領域番号 |
22J00747
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡崎 秀二郎 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ヘーゲル / カント / 自然主義 / 倫理学 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヘーゲルの「概念」観の再構成を通じて、その「概念」が含意する〈規範性と不可分な実在性〉の理解を踏まえつつ、現代倫理学の前提とされている「存在」と「当為」の区別の妥当範囲を明らかにすることを目的とするものである。またとくにその研究手法として、ヘーゲルの主著『大論理学』「概念論」に見出される(「色彩」に代表される)自然的な対象と文脈にフォーカスし、その背景にある思想史の分析を踏まえつつ、ヘーゲルの「概念」観がもつ理論的射程を明確化することを目指すものである。 本年度は当該研究の第一段階として、『大論理学』「概念論」の解釈をめぐって現れてきた直近の諸研究において、本研究が採用する方針と軌を一にした、「自然」的対象や「自然哲学」の見地に依拠した「概念論」解釈を提示しようとする新たな研究潮流を見出しうる事情を整理した。より具体的には、これまで従来の「概念論」研究の多くを占めてきた見方としては、とくにカントの『純粋理性批判』とヘーゲルの『大論理学』の関係を重視した上で、ヘーゲルの「概念」観のうちに、カントの自由を伴う「統覚」の理解の影響を強く見る視座が主流なものであった(例えばS. Houlgate、R. Pippin、久保等の諸家にこうした見方が共有されていると評価できる)。それに対して、(E. FicaraやK. Ngによる)直近の「概念論」研究に見出されるのは、この従来の方針を尊重しつつも、そこにアリストテレスにまで遡りうる「自然主義」的傾向や、カントの『判断力批判』における「自然目的」論を射程に収めた、複線的な思想史的影響関係を想定する方向性だと言うことができる。これらの研究動向の分析を通じて、本研究はヘーゲルの「概念」観に流入する自然哲学的含意をもつ「哲学史的背景」を整理することを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は『大論理学』に見出される、「色彩」という「自然学」の領域に属する対象を「概念」の範型とするヘーゲルの「概念」観がともなう特徴について、ヘーゲルの思想が成熟していく過程で被った歴史的な影響関係を介して分析を遂行する計画であった。本年度は、「新型コロナウイルスの影響に伴う資格要件に係る特例取扱い」が適用されたことに伴い、開始が留保されていた当初の研究計画のうち、ヘーゲルの「概念」観に流入する「哲学史的背景」をまず包括的に明らかにすることに焦点を絞って研究を実施した。 本年度の研究の結果整理された、直近の『大論理学』解釈の知見を検討することを通じて、『純粋理性批判』から『大論理学』へと進む従来の単線的な理解には還元されえない、より複雑で精密な哲学史的な影響関係を明確にすることができたと考えられる。より具体的には、(「形式」や「自然目的」論という論点に着目する)これらの比較的新しい『大論理学』研究の知見は、カントの『判断力批判』を重視した同時代のゲーテやシェリングらの「自然哲学」的見地によるヘーゲルの「概念」観への影響を示すものである。これらの先行研究の整理を通じて、本研究は「自然的」対象に依拠するヘーゲルの「概念」観の「哲学史的背景」を明らかにした。 本年度は、上記特例取扱いの適用により研究期間が限られたため、以上の研究結果の詳細を公表するには至らなかったが、ここまでの研究を通じて、今後この哲学史的背景を踏まえてヘーゲルの「概念」観をより明確に定式化していく上での、一つの基準となる視座を確定することができたと評価される。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は今後の計画として、前年度で整理を与えたヘーゲルの主著『大論理学』の思想史的背景に対する研究の観点を踏まえた上で、(1)ヘーゲルの 「概念」観をより明確に定式化すること、またその過程において(2)現代哲学の基礎的フレームワークをもとにヘーゲル哲学と現代哲学を架橋する論理学的観点を確定することへと向かう予定である。 より具体的には、(1):『判断力批判』における「自然目的」論の影響に焦点を置く直近の「概念論」研究の枠組を足がかりとして、イェーナ期の体系構想から(「生」や「善」といった目的論的な理念を介して)発展してきた『大論理学』の「概念論」において、その「概念」観が目的論的観点から帰着してゆくある種の「規範性」の内実を、より明確化していく形で本研究を推進する。 また(2):こうした哲学史的背景から浮き彫りにされる「規範性」の理解を現代哲学の議論へと接続する上で、ヘーゲル論理学のうちに規範性論を読み込もうとするより一般的な試みであり、かつ現代の規範性論への射程をもつ、R. Brandomによって主導される推論主義的観点の援用を検討する。とくに「概念論」の「概念の判断」に依拠した直近のK. Ngによる規範性の理解では、(P. Reddingによって修正が加えられた)より弱い意味での推論主義によって、「概念論」の核心をなす「概念」の枠組と定義そのもののうちに、規範性の含意を読み込みうる可能性が示唆されている。本研究の今後の計画でも、ヘーゲルの「概念」観を整合的に理解していく中でその「概念」観そのものが内在する「規範性」の含意を明確化するため、以上のように規範性論への射程をともなう形で現代哲学によって精緻化された理論装置を念頭に置きつつ研究を進めていく予定である。
|