今年度は以下の研究を進行し、その成果を学会発表するとともに、論文執筆の準備も行った。 (1)ポリカテナンからなる無限大網目(ポリカテナンゴム)の多軸変形挙動の解明:固定架橋点を含まず、環状高分子同士のほどけない絡み合いのみからなるポリカテナンゴムは、高分子科学の黎明期からの未解決問題である絡み合い相互作用の解明の鍵となる材料とされてきた。大変形挙動を測定できるスケールでのポリカテナンゴムの合成は近年報告されたばかりであり、詳細な大変形特性は未解明であった。我々は、ポリカテナンゴムは、一軸伸長において、30倍近い超高伸長性を示すことを明らかにした。これは、伸長によって可動的な絡み合い点が再配置されるためであると考えられる。さらに、一軸伸長・二軸伸長の両変形において非常に弱い応力の伸び依存性を示した。また、二軸伸長測定から、ポリカテナンゴムは応力に対する大きなひずみの交叉効果を示すことが分かった。この結果は、網目鎖の絡み合いがひずみの交叉効果を生むというゴム弾性理論の従来説と定性的に矛盾しない結果となった。
(2)ポリカテナンゲルの膨潤・収縮特性:ゲルは溶媒の吸収・放出が可能であり、それに伴い、弾性率も変化する。膨潤・収縮時には網目鎖密度が変化するとともに、網目鎖の伸長状態も変化する。そのため、ゲルの膨潤(収縮)に伴う弾性率の変化は、網目鎖密度の減少(増大)と網目鎖の伸長(収縮)で説明することができる。しかし、膨潤・収縮に伴う弾性率変化に関する理論予測は固定架橋点をもつゲルを前提として考えられており、固定架橋点を含まないポリカテナンゲルでは理論予測とは異なる挙動を示す可能性がある。我々は膨潤度の異なるポリカテナンゲルを作製し、弾性率の膨潤度依存性を測定することで、膨潤に伴う絡み合い点の再配置という固定架橋点にはない特異な性質を示唆する結果を得た。
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