本年度では、実践的なヒ素炭素結合の形成反応を用いることでアンテナ配位であるアルシンオキシドを設計し、硝酸ユウロピウム錯体に用いた。前年度ではトリフェニルアルシンオキシドを有する硝酸ユウロピウム錯体の発光特性について報告し、ホスフィン類縁体と比較することで、ヒ素の特性がユウロピウム錯体の発光特性を向上させることを明らかにした。一方でこれまでランタニド錯体のアンテナ配位子として用いられたアルシンオキシドはトリフェニルアルシンオキシドのみであった。つまりアルシンオキシドを有するランタニド錯体の特性を明らかにするためには、アルシンオキシドの構造とランタニド錯体の特性の相関を明らかにする必要がある。そこで本年度では、実践的なヒ素炭素結合の形成反応によって合成したアルサフルオレンオキシド、フェノキサアルシンオキシド、アルセピンオキシドをアンテナ配位子として用い、アルシンオキシドの共役構造がユウロピウム錯体の発光特性にもたらす影響について調査した。いずれのアンテナ配位子も励起状態における一重項および三重項状態のエネルギー準位が異なるため、エネルギー準位に応じた光増感エネルギー移動挙動が観測された。特にアルサフルオレンオキシド骨格ではエネルギー移動効率が90%を超え、アンテナ配位子として有用な骨格であることが明らかになった。そしてホスフィン類縁体と比較すると、どの骨格においてもアルシンオキシドのほうが電気双極子遷移の発光強度とエネルギー移動効率が高いことが明らかになった。この理由として、ヒ素の高い分極率と重原子効果に起因していることがわかり、ユウロピウム錯体の発光特性にアルシンオキシドが有効に機能することを示唆する結果であった。
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