本研究は、ATPのエネルギーで動作するプロトンポンプであるV-ATPase (液胞型 ATPase、以下VoV1と記す) の構造を、低温電子顕微鏡 (以下、 Cryo-EMと記す) を用いた構造解析により解明することを目的として行った。この目的達成のため、VoV1を細胞から単離するための精製手法の開発に取り組み、ラット脳組織からVoV1を精製することができた。精製したラット脳組織由来VoV1について、Cryo-EMを用いた単粒子解析を行った結果、VoV1の全体構造とともに、その阻害剤結合型構造を示すことができた。さらに、本研究で得られたVoV1の調製方法を他の細胞種に応用することで、細胞内局在の異なるVoV1を調製することができた。 細胞内オルガネラであるシナプス小胞を対象としたクライオ電子線トモグラフィー(Cryo-ET)については、高分解能構造解析のためのトモグラム再構成方法の検討を行った。結果、良好なトモグラムを再構成することはできなかったものの、高分解能構造解析を行うためのCryo-ET試料の調製や解析手法に関して多くの予備的知見を得ることができた。このような知見は、VoV1だけではなく、様々な細胞内膜タンパク質のCryo-ET解析においても活用できると期待できる。
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