2023年6月に、「ワークショップ西洋史・大阪」にて研究状況を報告した。また、これに先んじて大阪大学西洋史学会の「若手セミナー」でも発表を行った。前年度に明らかになった西ドイツの社会情勢という課題については、まだ整理し切れていない部分があったが、会場で受けたレスポンスも参考にして、検討を続けた。 その結果として、夏から秋にかけて論文を書き上げ、『パブリック・ヒストリー』へ投稿することができた。本論文は2024年2月に公刊されている。投稿に先立って9月には、「若手セミナー」及び「史学文献購読会」でその内容を報告し、参加者より多数の助言を受けた。 前年度から社会情勢を考察の対象に含めたことで、論争においてバウディッシンとシュネツに代表される改革派と保守派が、どのような形で妥協点を見いだしたのかという疑問点に関して、大きな収穫を得た。当時の連邦軍は徴兵制の軍隊であったが、徴集される若者は世相の影響を受けて個人主義的な傾向を強めていた。このような戦後世代の感性の変化は、保守派・改革派の両者ともに想定していなかったものであり、どちらにも与しない彼らの動きは、いわば第三の立場としての影響力を持った。そしてこのことが、保革両派に妥協と協力を促すことになったと考えられる。 上記の知見については、12月に「九州史学会大会」で報告をおこなった。その後、ドイツに渡航して史料収集を実施し、この調査活動では、連邦軍の兵員教育用の内部資料を入手した。そして、これを元にさらに考察を加え、2024年の3月に研究成果を「西日本ドイツ現代史学会」で発表した。 3年の研究を通じて、連邦軍におけるヒトラー暗殺未遂事件の受容に際して、バウディッシンの思想がその基板を形作ったが、それは保守派との対立と妥協を経て形成されたものであり、さらにその背後には、徴兵の対象となる若年世代の変化があったことが明らかになった。
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