本年度は、イタリアのフェラーラを支配していたエステ家のアルフォンソ二世によって、16世紀後半に複数回にわたって催された演劇的騎馬試合を中心とする初期近代の祝祭を対象とし、演劇的騎馬試合という祝祭形式の成立経緯や、他国における催し及び以降の文化芸術へ与えた影響を明らかにすることを目的とし、研究を進めた。 16世紀後半にフェラーラ公となったアルフォンソ二世は、自身の婚礼や他国の君主らの来訪に際し、1560年代に5度の演劇的騎馬試合を上演させた。ストーリーは騎士物語と古代神話を融合させた内容で、騎馬試合という形式をとりながらも徐々に音楽劇に近づいていった。 本年度は、昨年度にイタリアに渡航しておこなった資料調査で閲覧・入手した、エステ家宮廷の行事記録や書簡、音楽にかかわる出納記録などの資料を分析した。そのうえで6月には、アルフォンソ二世の宮廷で催された五回の演劇的騎馬試合について、宮廷人たちがその着想にいたった経緯や、具体的な上演内容、その中で用いられた音楽、そして後世へ与えた影響についての分析を中心とする博士予備論文を提出した。 また、特に演劇的騎馬試合中で用いられた音楽について詳しく分析し、「騎馬試合」ではありながら、徐々に音楽劇へと変化していく様子を明らかにした「アルフォンソ二世治下のフェラーラにおける演劇的騎馬試合の発展――音楽および上演形式の変遷」と題した論文が、『待兼山論叢』に掲載された。 また、1月から2月にかけて、再度モデナの国立文書館での資料調査をおこなった。今回の調査では、祝祭がおこなわれた16世紀当時にエステ家の大使としてフィレンツェ公国(後にトスカーナ大公国)や神聖ローマ帝国の宮廷に滞在していた人々がアルフォンソ二世に書き送った書簡や、演劇的騎馬試合が行われた時期の支出一覧などを閲覧し、分析した。
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