本研究課題では、機械的剥離法により薄膜素子が作製可能である、原子層らせん磁性体CrNb3S6や原子層強磁性体Fe5GeTe2を用いて、超伝導体との接合素子を作製することで、超伝導電流を利用した新機能の実現を目指しました。磁性体と超伝導体の接合界面近傍に、磁化のねじれた構造が存在する場合、スピン量子化軸の空間的な変化に起因して、スピン三重項超伝導電流が発現することが知られています。そこで我々は、磁化のねじれ構造を実現する対象として、CrNb3S6のらせん周期やFe5GeTe2の表面・界面におけるジャロシンスキー・守谷相互作用に着目しました。磁性体中の磁気的な応答を通して、これらを制御できれば、スピン一重項超伝導電流とスピン三重項超伝導電流の切り替え制御が可能となります。これまでの研究では、磁化のねじれ構造を実現する舞台であるFe5GeTe2薄膜のより詳細な磁気的性質の解明に取り組んできました。本年度は、前年度から取り組んでいた1.Fe原子のCo原子置換に関する研究、2.Fe5GeTe2中の有効スピンホール角の評価に関する研究を更に進展させました。その結果1.については、磁性元素置換による磁気異方性や磁気相の変調を実証し、バルク試料では現れなかった磁気ヒステリシスが、46%置換を行った薄膜で発現することを明らかにしました。また2.については、磁気転移に伴う有効スピンホール角の増大が複数素子に対して出現することを確かめ、その起源について考察を行いました。1.は筆頭著者論文を出版し、2.についても学術雑誌へ投稿中です。なお各研究に関して、日本物理学会学生優秀発表賞を得ました。本研究で得られた成果は、原子層磁性体を用いた新機能デバイス実現の可能性を大きく広げるものであり、原子層接合デバイスの制御性の向上に貢献するとともに、原子層磁性体自身の磁気的性質の理解にも直結すると期待されます。
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