本年度は、モルフォ型ディフューザーの実用性を明らかにするため、300 mmウエハサイズのフォトリソグラフィを導入することで大面積加工を実現し、採光窓・照明としての実証実験を実施した。具体的には以下の通りである。 【大面積加工】 昨年度実証したディフューザーは、ナノパターンの作製に電子線リソグラフィを用いたため、面積はわずか6 mm角に留まり、実用的な応用は困難であった。そこで本年度は、最小寸法 300 nmのナノ構造を解像できるKrFステッパー(露光波長248 nm)を使用し、300 mmウエハ全面にパターニングを行った。こうして加工したウエハを鋳型(モールド)とし、透明なシリコーン樹脂であるPDMSに転写することで、大面積のモルフォ型ディフューザーを得た。 本ディフューザーは「透過率 ~ 90%、角度広がりFWHM ~ 70°、低い波長分散」などの良好な性能を示し、またLED光に対して均質な光拡散を示した。なお、本ディフューザーはモールドの加工に高価なリソグラフィを要するが、PDMS製のディフューザーをロール状に巻き付ければroll-to-rollナノインプリントのモールドにもなるため、さらなる低コスト化や量産化が期待できる。 【実用性の検証】 本ディフューザーの実用性を明らかにするため、採光窓や照明としての実証実験を行った。まず、日中(快晴)の窓ガラスにディフューザーを貼り付け、ディフューザーの有無に対する照度を測定したところ、従来型ディフューザーでは照度低下が見られたのに対し(低透過率と等方拡散のため)、モルフォ型ディフューザーは照度の増加を示し、採光窓としての有用性が確認できた。さらに、撮影照明に適用して文化財のテスト撮影を行ったところ、例えば刀剣においては、通常の照明では見る角度や光の当て方を調整しないと視認できない刃文や銘が、光源1つで刀身全体にわたって一度に浮かび上がるなど、優れた性能が明らかになった。
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