研究実績の概要 |
本研究では、ヘムタンパク質の補因子のヘムを人工補因子へと置換する再構成法により、ヘムタンパク質を基盤とした高難度反応を促進する人工金属酵素の開発とその細胞内反応への応用を目的とした。具体的には、C-H結合アミノ化反応とアルケンのシクロプロパン化反応に着目し、人工金属酵素の開発に取り組んだ。 C-H結合アミノ化反応では、ミオグロビンのヘムを鉄ポルフィセン錯体に置換した再構成ミオグロビン(rMb(FePc))が高い触媒能を示し、そのkcat値は天然ミオグロビン(nMb)の約4倍であった。更に、タンパク質構造としてシトクロムP450BM3を使用し、機械学習を用いた変異体スクリーニングにより、2,4,6-トリエチルベンゼンスルホニルアジドを基質とする反応の触媒回転数がrMb(FePc)と比較し、約12倍向上した。 アルケンのシクロプロパン化反応では、酸化還元電位に着目してミオグロビンの補因子を改変し、反応性を評価した。nMbのヘムを、ポルフィリン環のピロールのβ位にトリフルオロメチル基を2つ導入した鉄ポルフィリン錯体に置換し、再構成ミオグロビン(rMb(FePor(CF3)2))を調製した。nMbと比較し、rMb(FePor(CF3)2)の酸化還元電位は約100 mV正にシフトした。種々のシクロプロパン化反応で、rMb(FePor(CF3)2)とnMb、および低い酸化還元電位を示すrMb(FePc)とを比較すると、酸化還元電位が高いミオグロビンほど高収率で生成物を与えた。反応機構解析のための種々の実験の結果、rMb(FePc)を用いた反応ではイオン的な反応機構を示唆し、rMb(FePor(CF3)2)ではラジカル的な反応の進行を支持した。 本研究で得られた結果は、人工金属酵素の合理的設計法の確立に寄与し、将来的に細胞内反応系へ展開されることが大いに期待される。
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