2022年度までにおいて,分子動力学法を用いて,液膜が二つの平行な固体平板に挟まれた準一次元系に対して,固体―液体間の固液間摩擦力のゆらぎの自己相関関数の解析を行った.具体的には,流体力学のモデルをナノスケールに適用した際の固液間摩擦力の自己相関関数の解析解を導出し,これが分子動力学の結果をよく再現することが示された.また,この解析解を時間スケールの分離を行うことで,分子動力学法を用いて平衡系から固液摩擦係数を算出する方法を提案し,この手法の妥当性を検証した. 今年度は,線形応答理論に基づき,より一般的に,平衡系の物理量のゆらぎと外力が加わった非平衡系の応答との関係を解析した.分子動力学法を用いて,十分に時間が経過した際にはCouette流れとなる外力として,片側の固体に固液界面接線方向にステップ関数的に速度を与えた非平衡系について,数ps程度までの運動量分布の応答が,平衡系の固液間摩擦力と,局所的な流体の運動量との相関関数から得られることを確認した.また,同様の理論から,昨年度まで解析していた固液摩擦力の自己相関関数が,先ほどのCouette流れを生成する外力を与えた際の固液摩擦力の応答と一致することを示した.同様に,Poiseuille流れを生成する外力としてすべての流体分子に一定の外力を与えた際の運動量分布の応答を平衡系の物理量のゆらぎの相関関数から再現した. また,昨年度に行った平衡系から固液摩擦係数の算出する手法を応用し,固液界面間の熱コンダクタンスなどの様々な界面の輸送係数へ応用可能かを模索した.
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