研究課題/領域番号 |
21J20788
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嶋田 仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | セミクラスレートハイドレート / プロトン伝導 / 核磁気共鳴 / 中性子準弾性散乱 / 水 |
研究実績の概要 |
昨年度は、プロトンがセミクラスレートハイドレート(SCH)における伝導キャリアであることを明らかにした。本年度は、SCHにおいて見られるプロトン伝導機構の解明を目指し研究を進めた。まず、核磁気共鳴法により、SCHを構成する水分子のダイナミクス、とりわけ再配向運動を観測した。その結果、水分子の再配向時間はプロトン伝導の緩和時間と概ね一致した。このことからプロトンは、水分子の回転を律速段階としながら水分子間をホッピングする伝導機構であることを明らかにした。続いて、大強度陽子加速器施設(J-PARC)に設置されているBL02 DNAにて、中性子準弾性散乱測定を実施した。この測定により、特定のアニオン種周りの水分子は、核磁気共鳴法で観測される水分子のダイナミクスよりも速く運動していることを明らかにした。両測定法で明らかにした速度の異なる水分子の再配向運動がSCH中のプロトン伝導に大きく影響しているため、高イオン伝導体の開発にむけ、大きく前進したと思われる。電気化学インピーダンス測定では、ハライドアニオンの違いがSCH内でみられるプロトン伝導度に与える影響を精査した。その結果、ハライドイオンサイズが小さくなると、プロトン伝導度も低下する傾向が見られた。来年度は、伝導度が変化す要因を核磁気共鳴や中性子準弾性散乱測定を用いて明らかにする予定である。また、ハライドイオン以外のゲストイオンからなるSCHを独自に合成し、様々なゲストイオンがプロトン伝導度に与える影響を明らかにし、高プロトン伝導体の開発につなげる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セミクラスレートハイドレート(SCH)内で見られるプロトンの伝導機構解明にむけ端緒を掴むことに成功した。しかし、ゲストイオンを置換した際の伝導挙動については、未だ明らかにできていない。そのためには導電率測定を加速させる必要があるものの、半導体不足の影響で、電気化学インピーダンスアナライザーの導入が遅れた。現在、適切なゲストイオンのスクリーニング方法を確立したことにより、その遅れを最小限にとどめている。単結晶の作成が容易なSCHに絞って、電気化学インピーダンス測定に取り組んでいく。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、複数のイオン種を変化させることにより、イオン種の違いがプロトン伝導度や水分子のダイナミクスに与える影響を精査する。特に、典型的なゲストイオンであるハライド系のみならず、水酸化物イオンやカルボキシラートイオンなど、特性の異なるイオンからなるセミクラスレートハイドレート(SCH)を測定対象とすることで、各SCHの生成過程モニタリングやガスセンサー、電池材料への応用などに資する基礎データや知見を蓄積する。これまでに得られた知見を活かし、高イオン伝導を発現するSCHの開発を目指す。
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