研究課題/領域番号 |
21J21061
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小井手 祐介 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 界面活性剤 / ミセル / 高分子 / 粗視化分子シミュレーション / 乱流変調 |
研究実績の概要 |
本年度は,本研究課題の目標達成に向けて2つの研究テーマに取り組んだ.1つ目は,一様せん断流中でのひも状ミセルの配向である.一様せん断流中のひも状ミセルは,せん断速度の増加とともに流れ方向へと配向することはよく知られていた.しかし,一様せん断流によるミセルの分裂促進が配向に及ぼす影響を定量的に評価した研究はこれまで無かった.そこで,本研究では,昨年度明らかにした一様せん断流中のミセルの分裂の知見に基づいて,分裂が配向に及ぼす影響を調査した.重要な点は,その配向性質がよく知られた高分子と比較することで,ひも状ミセル特有の分裂の影響を明らかにした点である.昨年度の研究成果により,ひも状ミセルの最長緩和時間の評価が可能になったことで,特徴時間の異なる高分子とひも状ミセルの適切な比較が実現した.その結果,ミセル特有の流れによる分裂促進が始まると,ひも状ミセルの配向は高分子に比べて抑制されることがわかった.2つ目は,高分子を模したダンベルモデルの乱流中におけるふるまいの調査である.直接数値シミュレーションにより得られた乱流場から速度勾配テンソルの時系列を取得し,そのデータを用いてダンベルモデルのブラウン動力学シミュレーションを実行した.本研究では,乱流中のダンベルモデルの伸長と配向に注目した解析を行った.特に,乱流中に存在する大小様々な渦の階層構造に着目した点が本研究の特色である.ダンベルは乱流中の渦によってある方向へと配向したり伸長したりするが,どの大きさの渦の影響が支配的かを,流れ場をスケール分解することで明らかにした.具体的には,ダンベルの緩和時間が小さい場合には,ダンベルは乱流中の最小渦に由来する方向へと配向するのに対し,緩和時間が大きな場合には,最小渦よりも1つ大きな渦に由来する方向へと配向することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究成果で得られた分裂と最長緩和時間の知見を駆使し,一様せん断流におけるひも状ミセル特有の配向性質を明らかにすることができた.これは,本研究が目指す分子スケールでの相互作用に立脚した物理機構解明を目指すうえで重要な知見である.さらに,本年度は,これまで取り組んできた分子シミュレーションに加えて乱流の直接数値シミュレーションも実施した.簡易的なモデルではあるが,ダンベルモデルの乱流中のふるまいを明らかにすることで,乱流中の大小様々な渦の秩序的な階層構造と分子スケールでの界面活性剤ミセルのふるまいを繋ぎ合わせる準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,3つの研究課題を通じて研究を推進する予定である.1)これまでミセルの分裂に注目してきたが,界面活性剤添加による乱流変調を分子レベルで解き明かすためには,流れ場中での再結合について理解する必要がある.そこで,これまで蓄積してきた解析技術を駆使し,一様せん断流中のミセルの再結合の統計的性質とその物理機構を明らかにする.予備的な解析では,平衡状態における平均再結合時間のスケーリング則については得られており,今後は,流れの影響を明らかにする予定である.2)分子スケールと巨視的なスケールの橋渡しに向けて,界面活性剤水溶液の連続体モデルを用いた研究を行う.これまでの分子シミュレーションで得られた知見に基づき,近年提案された界面活性剤水溶液の連続体モデルのレオロジー性質を解析する.これにより,分子スケールの知見を巨視的な流れの予測に適用可能な形へとスケールアップする.3)最後に,粘弾性流体の直接数値シミュレーションを行うことで,乱流変調の物理機構へと迫る.近年明らかとなった乱流中の秩序的な階層構造の観点から,粘弾性流体の乱流変調現象の理解を目指す.
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