本研究では,界面活性剤添加による乱流抑制の物理機構を分子スケールから解明するため,異なるスケールを対象とする3種類の数値シミュレーションを行った.(1)まず,散逸粒子動力学法を用いた分子シミュレーションにより,一様せん断流下のミセルの分裂を明らかにした.具体的には,ミセルの平均寿命と回転緩和時間から定まる最長緩和時間を導入し,平均寿命のせん断速度依存性を系統的に整理する指針を確立した.(2)次に,ミセルの分裂が流れ方向への配向に及ぼす影響を明らかにした.高分子の配向と比較することで,ミセルの分裂促進がミセルの配向を抑制することを示した.(3)また,分裂だけでなく,静止溶液中における結合の統計則も明らかにした.(4)より複雑な乱流中でのふるまいを調べるため,高分子を単純化したダンベルモデルの乱流中でのふるまいをブラウン動力学法により調べた.流れ場をスケール分解することで,乱流中の大小様々な渦がダンベルの伸長と配向に及ぼす影響を評価した.ダンベルの緩和時間に依存して,各スケールの流れ場によるダンベルの伸長や配向への寄与率が変化することを明らかにした.(5)最後に,高分子や界面活性剤ミセルが流れに及ぼす影響を調べるため,粘弾性流体の2次元円柱後流の数値シミュレーションを行った.緩和時間を増加させていくと,まず,粘弾性による渦の抑制が発生し,さらに増加させると,粘弾性流体特有の乱れが発生することを示した.
|