研究課題/領域番号 |
21J21289
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 源希 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ドット / スピン / 光子 / 量子状態変換 / 量子インターフェース / 量子ビット / 非ドープ型量子井戸 / 面内PN接合 |
研究実績の概要 |
本研究では半導体量子井戸構造中のゲート制御型量子ドットによって実現される光子偏光から電子スピンへ量子情報を変換する量子インターフェースにおいて、変換後の電子スピンに対する量子情報処理に必須となる光励起単一電子スピンの回転操作の実証を目指す。その実現には、統計的に有意な数の単一電子スピンの光励起信号を高精度に読み出すこと、および変換直後の電子スピンに対する量子ドットのエネルギー準位が所望の位置に精密に制御可能であることが必要となる。まずは長時間の光子照射下でもエネルギー準位が乱されない、安定した動作が可能な量子ドットの開発に取り組む。 従来のドープ型GaAs/AlGaAs量子井戸においては、Siドーパントが形成する欠陥準位が光不安定性の原因の候補として考えられていた。昨年度から今年度にかけてこの欠陥準位の排除による光安定化を狙った非ドープ型量子井戸を用いた量子ドット素子の評価を行った。希釈冷凍機を用いた電気伝導測定において、二重量子ドットの電子数制御と二電子スピン相関検出、および光励起電子検出を実現し、光励起単一電子スピン読出の要素技術を実証した。一方、電荷検出用量子ドットの伝導特性が長時間の光照射下で変化していく様子が確認され、光安定化のためにはドーパントの除去の他にも改善が必要であることが分かった。(論文準備中) また当初の予定にはなかったが、同一素子内で電子と正孔を量子井戸層へ誘起する面内PN接合素子を作製し、電子と正孔それぞれでのSdH振動の観測に成功した。これは本提案で非ドープ型素子の応用として挙げていたスピンから光子への逆変換の量子インターフェースの原理検証に重要な進展である。 また、光子偏光から電子スピンへの量子インターフェースの原理検証に用いる、従来構造のドープ型量子井戸を用いた遮光マスク付き二重量子ドット素子を作製し、所属研究室の共同研究先へ提供した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
従来のドープ型GaAs/AlGaAs量子井戸において、光励起単一電子スピンの回転操作の実証のための課題の一つは光子照射に伴う量子ドット素子の意図しない状態の変化である。これまでに、長時間または高強度の光照射後に量子ドットが制御・形成できなくなることと、光子照射時に量子ドットのエネルギー準位が変動してしまいエネルギー準位の精密な制御が困難であることが確認されている。これらの改善を狙って、今年度まではトップゲート電圧により非ドープ基板の量子井戸に電子を誘起する構造を用いた素子の評価を行ってきた。 二重量子ドットの形成および制御、二電子スピン相関検出および光励起電子検出は光励起単一電子スピン読出の要素技術であり、これらの実証により非ドープ型素子を用いた量子状態変換の原理検証が可能であることが示された。一方、光照射下における量子ドット伝導特性の変化は改善や対策が必要であるが、長時間の光照射下でも量子ドットが形成・制御可能であることが示され、光照射耐性の課題の一つが改善されたといえる。また、非ドープ型構造にもかかわらず伝導特性の変化が見られたことと変化の時系列特性から、光照射による基板内への意図しない電荷の蓄積の抑制がさらなる改善のために必要であることが推測され改良の方針が得られた。 従来構造で用いられていた遮光マスクは非ドープ型素子でも有用であると考えられ、提供試料の作製時にゲート電極に対して誤差50nm程度の十分な位置精度での作製手法を確立している。次に基板構造の改善としてバックゲート電極を持つ素子の開発を予定していたが、こちらは遅れがあり次年度から取り組む。 また、当初の予定にはなかった面内PN接合素子におけるSdH振動の観測はスピン偏極した量子ホールエッジチャネルを介した電子と正孔の再結合による偏光発光の検証へと進展でき、スピンから光子偏光への逆変換の実証実験へとつながる。
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今後の研究の推進方策 |
まずバックゲート電極によって非ドープ基板の量子井戸に電子を誘起する構造の素子の作製と評価に取り組む予定である。この構造ではトップゲートを用いないことによる光子透過率の改善と、光照射による基板内への意図しない電荷の蓄積の抑制が期待される。オーミック電極やキャリア誘起、微細ゲート電極による伝導度制御とその光照射に対する影響など、量子ドット素子の動作に必要な要素を簡易的に評価する。その後、光子偏光から電子スピンへの量子状態変換の実証実験へ用いる量子ドット素子を作製する。バックゲート型の構造で解決が容易ではない不都合が確認された場合は、光子透過率は落ちてしまうが既に量子ドットの動作が確立してあるトップゲート型の非ドープ構造を用いる。 この時作製する量子ドット素子では、対象の量子ドットのみに光子を照射し光照射に対する影響を抑制するための遮光マスクの他、高周波反射測定やスピン回転操作を行うための構造も組み込む。作製した試料では光学窓付き希釈冷凍機による電気伝導測定とフリースペースの光学系による光子照射実験を行う。 この際、非ドープ型構造によって可能となった長時間の光照射下における量子ドットの制御から進展して、量子ドットのエネルギー準位の自動補正制御により多数の単一電子の光励起信号の取得を可能とする手法の構築を目指す。次に新たな光励起単一スピン測定手法としてゲート電圧のパルス制御を用いた単一スピン検出を検証し、光励起単一電子スピン回転操作に必要となる光励起直後の量子ドットのエネルギー準位の制御とスピンエネルギー緩和時間内の任意のタイミングでの高速測定の実現を目指す。 また、面内PN接合素子については偏光発光の検証や量子ドットを組み込んだ構造の開発などスピンから光子偏光への逆変換の検証実験へと進展できるが、基本的には後任への引継ぎへ移行する。
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