顎運動の制御に小脳機能の関与が考えられているが、その詳細な神経機構は不明であった。本研究は、咀嚼における小脳の重要性を咀嚼筋感覚の小脳投射の特性から解明することを目標としてきた。令和3年度の研究では、咀嚼筋感覚が入力する三叉神経上核から小脳皮質への投射に関する研究を遂行した。咀嚼筋感覚を中継する三叉神経上核に順行性神経回路トレーサーであるBDAを注入すると、両側の小脳皮質の半球部、特に単小葉B、第二脚、片葉の3カ所に強く投射することが明らかになった。また、口腔顔面部と体部の筋感覚の投射を比較するために、頸部と上肢の筋感覚を中継する外側楔状束核にBDAを注入すると、小脳皮質の虫部に強く投射することが明らかになった。この内容を令和4年7月に論文として発表した。また、この内容を令和4年7月の日本神経科学会と令和5年3月のOral Neuroscience、令和5年9月の歯科基礎医学会にて発表を行った。 さらに令和4年度の後半からは、咀嚼筋感覚に関わる小脳核部位を明らかにするため、三叉神経上核から小脳核への投射の解明を目指した実験を開始した。三叉神経上核にBDAを注入すると、両側の小脳核、特に中位核背外側瘤と内側核背外側隆起の2カ所に強く投射することが明らかになった。また、口腔顔面部と体部の筋感覚の投射を比較するために、外側楔状束核にBDAを注入すると、小脳核投射は非常に弱く、中位核背内側稜に投射することが明らかになった。この内容を令和5年8月に論文として発表した。また、この内容を令和6年3月の日本解剖学会にて発表を行った。 研究期間全体を通して、期待していた以上の研究成果を得ることができ、2編の論文と複数の学会発表によって発信した。また、これらの研究成果が認められ、2023年度第18回ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞を受賞するなど、非常に高い評価も受けた。
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