生体分子の分解を担う酸性オルガネラ・リソソームは取り込んだ多様な物質によりしばしば損傷を受け、炎症や細胞死を誘導する有害な存在へと変貌する。これに対し、細胞はリソソーム損傷応答と総称される複数の機構を駆使し細胞の恒常性を維持しているが、その制御機構はほとんど解明されていない。また、リソソーム損傷の蓄積が神経変性疾患をはじめとする加齢性疾患や老化に寄与することが明らかとなりつつあるが、これら疾患や老化におけるリソソーム損傷応答の役割は不明である。以上より、リソソーム損傷応答の制御機構とその生理学的意義の解明を研究目的とした。 本研究では、これまでに取得したリソソーム損傷応答の新規制御因子候補からTRIM21とSTK38というタンパク質に着目し、各種リソソーム損傷応答への寄与を評価した。さらにSTK38については、その機能ならびに老化における役割を解析した。その結果、STK38が膜の切り離しを担うタンパク質複合体、ESCRTのリソソーム膜へのリクルートを介し、細胞内分解システムの一つ、ミクロオートファジーによるリソソーム修復(ミクロリソファジー)を誘導していることを明らかとした。また、本因子が老化過程でのリソソームの恒常性維持に寄与し、老化抑制や寿命延長に重要であることも明らかとした。 最終年度である本年度は、このSTK38によるミクロリソファジー制御の詳細な作用機序解析を実施し、キナーゼであるSTK38がアダプタータンパク質であるDOK1のリン酸化を介しESCRTのリクルートを制御していることを明らかとした。 本研究成果はリソソーム損傷応答の全容解明、さらにリソソーム損傷を伴う疾患の新規治療ターゲット創出に資するものである。また、本研究はリソソーム損傷応答が老化に対して防御的な役割を持つ可能性を示し、分子生物学的アプローチからの老化メカニズム解明に繋がることが期待される。
|