研究課題/領域番号 |
22J00551
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
DURAN STEPHEN ITHEL 大阪大学, 人文学研究科, 特別研究員(CPD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2027-03-31
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キーワード | 仏教音楽 / Buddhist Music / 声明 / Buddhist Chant / ネパール音楽 / Nepalese Music / 日本音楽 / Japanese Music |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「梵讃」の旋律と古代インドの音楽理論との間の関係を明らかにすることであるため、本年度前半では、真言声明の最古の口伝書、覚意の『博士指口伝事』の英訳から始まり、続いて、“Natyasastra”と “Dattilam”等の古代インド音楽理論書から読む音階理論を、『律暦志』『隋書』等の中国の文献に現れる音楽理論と、藤原貞敏の『琵琶譜』、天台宗の僧侶安然の『悉曇蔵』、後白河天皇の『梁塵秘抄口伝集』、天台宗の僧侶湛智の『声明用心集』の中に現れる音階理論を中心に比較研究し、その結果、日本の声明・雅楽の音階理論にインドの音階的概念の三つ、grama(二つの基本的音階)、sadharana(基本的音階の中で調整できる二つの音)、tana(六・五音音階を作る方法)の痕跡の確認ができた。インド音楽のsruti論(微分音論)も伝えられた可能性があることも確認できたが、これらが日本の中世に入ってから使われなくなったのではないかと考えられる。以上について米国の「SEM」で発表、京都市立芸術大学の「伝音セミナー」で講義、そして同大学の研究紀要『ハルモニア』で発表した。後半では、「梵讃」と同じ系統を持つネパール仏教のチャチャー修行歌を五つの源から収集し、それらは①受入研究者の論文からとった採譜②同研究者の声で唱えられている録音からとったもの③ロンドン大学SOASのWiddess名誉教授の論文からとったもの④南アジア音楽研究の先駆者でもあったBake教授が蝋管でとった録音を元に大英図書館がデジタル化したもの⑤本研究者がネパールで伝授されたものである。収集した36曲の音階分析を行い、古代インド音楽のgrama理論との関連を付け、これらにおいてsadharana理論も機能していることも確認できたので、gramaとsadharanaは、これからの梵讃との比較研究において比較対象の二つとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度で実施した研究は、当初の計画以上に進展している理由には、四つあり、一つ目の理由は、CPD二年目に計画していたチャチャー修行歌の伝授が、ネパールで新しいインフォーマントとの出会いにより、本年度から開始することができたことである。二つ目の理由は、一年目の研究を行なっている中で、チャチャーに関する重要な音源資料が大英図書館にあることが分かり、イギリスへそれらを聞きに行き、音階分析に取り入れたことである。これらの音源資料は、元々南アジア音楽研究の先駆者でもあったArnold Adriaan Bake教授が蝋管でとったものになるのだが、これらに関するBake教授のメモ書きが、ロンドン大学のSOASに保存されており、それらの複写もできた。三つ目の理由は、当初の計画では、一人のインフォーマントからチャチャー修行歌の曲群を収集する予定であったが、イギリスでの資料収集とネパールでの新しいインフォーマントとの出会い等により、収集する口伝グループを増やすことができた。口伝グループは、①カトマンズ市のMusumbaha寺院のNarendra Muniによる口伝、②20世紀のチャチャーの普及活動に励んでいたRatnakaji Vajracaryaによる口伝、③Bake 教授のインフォーマントであったSakalananda Vajracaryaによる口伝、の三つである。四つ目の理由は、当初の計画では、チャチャー修行歌の収集が目的の一つであり、これらの中心部分はRagaと呼ばれているのだが、研究を進めた結果、それぞれのチャチャーには、Ragaに加えて、Alap、sloka等の他の曲の種類があることが分かり、本年度、ネパールではこれらと他の種類の曲の伝授ができ、合計9曲の伝授ができた事である。Raga以外の曲を今後の分析に入れる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度では、本年度前半の研究で分かった古代インドのgrama理論と日本音楽の律呂との間の関係に関する投稿した論文・開催した講義等を、英語版として作成し、Music Theory Spectrumに投稿する予定である。続いて、チャチャー修行歌の収集を進め、本年度出会った新しいインフォーマントの元で、長期滞在期間が始まる(9月30日から3年間)前に、5月にネパールにて短期間の研究旅行として、alap、raga、slokaも含めて、チャチャー修行歌とそれらに関連する曲群等について、レッスンを受ける予定である。それぞれのチャチャーは、決まっているraga(音階、特別音、装飾音などに関する概念と分類)とtala(リズムに間んする概念と分類)に属しているのだが、これらが現代のインド伝統音楽のragaとtalaとは異なるため、来年度から、できるだけこれらのチャチャー修行歌のragaとtalaの理論上での音楽的性格と実践上での音楽的性格を把握し、論文にまとめる。9月30日から長期滞在期間が始まったら、比較的分析の質を上げるため、インフォーマントをできるだけ増やし、口伝グループの数も増やす予定である。そして、カトマンズ大学音楽学部の講義にも参加し、国外受入研究者のWegner教授の指導のもとで、今まで彼が行ったチャチャーで使うpancatala(打楽器)に関する研究を、彼の指導で読解し、それらの内容等を習得した上で、本研究との関連について記述して行く。そして当初の計画通り、今後、日本密教仏教声楽とネパール密教仏教声楽の理論の比較の準備として、前者の理論書の分析も行い続け、関連文献の主なものは『続真言宗全書』 の中の「声明部」に翻刻されている。本研究者の博士論文で扱った『声實抄』『声明集聞書』『声明口伝 』『声明集私案記』の4つの文献を中心に再読・再考する。
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