研究課題/領域番号 |
22J10002
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辻 寛 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 凸幾何学 / 関数不等式 / 熱流 / Mahler予想 / 相対エントロピー |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、大きく分けて次の二つの問題に取り組んだ。一つはdilation不等式と同等と考えられる関数不等式の構成であり、もう一つはMahler体積と呼ばれる凸幾何学的量に対する新しい解析的な理解と定量的下界を与えたことである. 一つ目について、dilation 不等式とは、集合を適当な意味で相似拡大した場合の体積の変化を記述する不等式であり、もともとは凸幾何学の文脈で利用されてきた。近年、この不等式は最適な形で曲がった空間(重みつきリッチ曲率の下界を伴ったリーマン多様体)上でも定式化された。本年度の研究では、dilation不等式を解析的な側面から理解することに重きを置いた。とくに、無限次元的なdilation不等式と同等であると考えられる関数不等式の構成を行った。この成果は今後論文にまとめる予定である。 二つ目について、Mahler体積と呼ばれる幾何的量の評価に取り組んだ。Mahler体積とは、凸体とその偏極体の体積の積のことを指す。Mahler体積の最適な上界はBlaschke-Santalo不等式として知られている。一方で、最適な下界はMahler予想という名の未解決問題として知られている。本年度の研究では、Blaschke-Santalo不等式とMahler予想の両者に対する熱流による解析的な新しい理解を提示することに成功し、その応用としてMahler体積の新しい下界を与えることができた。とくに凸体の表面が十分に曲がっていれば、その凸体に対してMahler予想は正しいことを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、dilation不等式の解析的な側面からの研究を行った。これにより、無限次元的なdilation不等式を満たす空間上において、その幾何学的な不等式と同等としてとらえられる関数不等式の構成に成功した。とくに、相対エントロピーとの関連を最適な形で見出すことができた。しかしながら、この関数不等式は非常に複雑な形をしており、得られた関数不等式の良さや応用などを十分に引き出せていないように思われる。そのような調査に苦戦している点において、この方向の研究は少し遅れているように思われる。しかしながら、早急に現在までに得られた成果を論文にまとめるように努めたい。 また本年度は少し違った方向の研究として、Mahler体積に関する調査を行った。特に、その方向の研究成果として、Mahler体積に関する幾何学的不等式を、ガウス測度に基づく熱流を用いた理解につなげることに成功した。最近の研究では、Mahler体積に関する幾何学的不等式が相対エントロピーや最適輸送と関連していることが指摘されており、後者の概念に関する研究は微分幾何学におけるリッチ曲率や熱流の研究の枠組みにおいて大きく発展している。本研究は、Mahler体積に関する幾何学的不等式のそのような新しい側面の理解を推し進めるものである。特にMahler体積の最適な下界評価はMahler予想として知られており、未解決問題となっている。その問題に対する新しい視点を提供できたことは大きい成果のように思われる。 以上の研究状況を統括して、本年度の進捗は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、引き続きdilation不等式の解析的な理解を進めていく予定である。特に、本年度では無限次元的なdilation不等式にのみ焦点を当てた関数不等式の構成を行ったが、次年度では次元の情報も合わせた関数不等式の構成にも着手したい。また、本年度得られた関数不等式は複雑な形をしているため、すぐに良い応用が見つかっていない。新たに得られたdilation不等式の関数不等式版の新たな応用の探索を行い、幾何学的な新しい結果を目指したいと考える。 また本年度の研究では、新しい方向の研究としてMahler体積に関する研究にも取り組んだ。こちらでは熱流を用いた新たなアプローチを提供することができたが、実際にMahler予想を解決するには至っていない。次年度の研究ではMahler予想の解決に寄与するような熱流の理解を推し進めていきたいと考える。また、Mhaler体積は相対エントロピーとも関連することが知られているため、dilation不等式から得られる相対エントロピーの不等式との関連性も探索していきたい。
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