研究課題/領域番号 |
22J10030
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小松原 祐樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 透明熱電材料 / 有効質量 / エピタキシャル / ナノワイヤ / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本年度、当初予定していた独自局所ゼーベック係数顕微鏡の開発に関する進展は少なかったものの、エピタキシャルMgZnO/ZnOナノワイヤ含有透明薄膜の作製に向け、エピタキシャルZnO透明薄膜の出力因子の増大機構の解明、面密度制御したZnOナノワイヤ構造の作製を行い、それぞれ成果を示した。具体的には以下に述べる。 1. エピタキシャルZnO透明薄膜の作製および出力因子増大機構の解明 本ナノ構造含有薄膜において、埋め込み膜の高性能化は重要である。そこでまず、c-Al2O3, r-Al2O3基板上にZnO透明薄膜を形成した。熱電性能を測定すると、低キャリア密度領域(<~1×1020 cm-3)ではZnO/r-Al2O3において理論より高いゼーベック係数が、一方、高キャリア密度領域(>~1×1020 cm-3)では、基板の面方位によらずゼーベック係数が増大する傾向を得た。構造評価および理論計算から、薄膜内の歪とAlの導入により有効質量が増大する結果を得た。特筆すべき成果はZnO/r-Al2O3においてユビキタス系透明薄膜の中で出力因子の最大値を更新した点である。 2. エピタキシャルZnOナノワイヤ構造の作製 ナノ構造界面での電子散乱制御による更なる出力因子増大、フォノン散乱による熱伝導率の低減が期待できるエピタキシャルZnOナノワイヤ構造を作製した。ナノ構造界面数が及ぼすゼーベック係数への影響を調べるため、ZnOナノワイヤの面密度を0.1~10×109 cm-1の範囲で緻密に制御した。特筆すべき成果は面密度がZnOの蒸着レートにより制御可能であることを初めて明らかにした点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では電子状態制御と電子散乱制御が可能なエピタキシャルMgZnO/ZnOナノワイヤ含有透明薄膜の作製、および独自局所ゼーベック係数顕微鏡の開発を行い、そこでの電子フォノン輸送メカニズムを明らかにすることを目指す。 試料作製においては順調で、既に埋め込み膜とナノワイヤの作製に成功している。今後、高性能な埋め込み膜における性能向上機構の詳細な調査を行う予定であるが、すぐに埋め込む準備が出来ている。一方で独自局所ゼーベック係数顕微鏡の開発においては、昨年度、真空部品に問題が生じたため修理を行っている最中であるが、本年度は予定通り、局所温度分布、局所電位分布測定が可能な機構へ装置を改良する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ZnO薄膜への①Al原子導入と歪による電子状態制御と、電子状態制御したZnO薄膜中へMgZnO/ZnOナノワイヤを導入し、②伝導電子の平均エネルギー増大法を駆使した熱電出力因子増大と、③ナノ構造界面でのフォノン散乱促進による熱伝導率低減を同時に実現した、高性能透明熱電材料の開発を行う。また、④局所ゼーベック係数直接測定装置を独自開発し、本ナノ構造含有薄膜へ適用することで局所ゼーベック係数増大方法論を確立する。 ①に関しては既にAl原子が電子状態変化(特に有効質量の増大)に寄与することを理論と実験から突き止めている。一方で、歪に関しては実験的にしか有効質量が増大する結果が得られていない。そこで本年度は理論計算により歪が電子状態へ及ぼす効果について詳細に調べる。 ②の平均エネルギー増大法では、ナノ界面でのバンドオフセット(エネルギー障壁)による低エネルギー電子散乱を促進し、伝導電子の平均エネルギー増大によるゼーベック係数増大を目指す。昨年度、我々は独自のナノワイヤ形成技術によりエピタキシャルZnOナノワイヤを作製した。そこで本年度はZnOナノワイヤをコア、エネルギー障壁層のMgZnOをシェルとしてコアシェル構造を形成し、エネルギー障壁高さ調整による熱電出力因子の最大化を行う。また、③の薄膜中へのナノ構造導入による熱伝導率低減を実証するため、当研究室が所持する薄膜熱伝導率測定装置を用いて熱伝導率評価を行う。本ナノ構造含有薄膜の熱電特性は、ナノワイヤの密度やエネルギー障壁層の厚さに大きく依存することが予想され、それらについてまとめて論文化する。 ④の独自局所ゼーベック係数直接測定装置の開発では、局所温度分布、局所電位分布測定をそれぞれ行い、局所ゼーベック係数を算出する。特に、③で作製したナノ構造含有薄膜へ適用し、最適なMg量、ナノワイヤの面密度の検討材料とし、研究を進める。
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