触媒化学的な糖の合成は、CO2還元を起点とするホルムアルデヒドの生成、そしてホルムアルデヒドを基質とした糖生成反応(ホルモース反応)の2つのプロセスの統合により達成される。しかし、後段プロセスのホルモース反応で従来用いられる塩基触媒では、系内の水酸化物イオンが引き起こす副反応のために糖生成の選択性が向上し得ないという課題があった。そこで本研究では、こうした副反応の抑制が可能な中性条件下でホルモース反応を進行させる触媒の探索を行った。その結果、金属オキソ酸塩触媒を用いることで、中性条件下において糖生成反応が進行することを明らかにし、また当初の狙い通り、当該反応における大幅な選択性の向上を達成した。これらの結果は論文にまとめられ、英国王立化学会が発行する国際学術雑誌「Chemical Science」に掲載された。さらに本研究成果の応用展開として、触媒反応により得られた糖を基質とするバイオ物質生産にも取り組んだ。コリネ型細菌をモデル微生物として種々の条件検討を行った結果、合成糖液に含まれる生育阻害因子を明らかにするとともに、当該微生物による合成糖液を基質とした乳酸の生成に成功した。これは、触媒化学的に合成された糖を基質としてバイオ物質生産が行われた初めての例である。また重要なことに、乳酸は解糖系の末端であるピルビン酸を経由して生成する。したがって野生株における乳酸の生成は、非天然な合成糖を基質として解糖系を経由したあらゆるバイオ物質生産が可能なことを意味する。本結果は、Wiley-VCHが発行する国際学術雑誌「ChemBioChem」に掲載された。
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