研究課題
本年度は、211At標識機能性金ナノ粒子を合成し、細胞および腫瘍担持モデル動物を用いた活性評価を行った。まずは、金ナノ粒子のサイズと表面修飾分子の検討を行った。金ナノ粒子の表面修飾に関しては、親水性を向上させるメトキシポリエチレングリコール (mPEG) 、細胞透過性が高いポリヒスチジンペプチド (H16)、腫瘍集積性を持つ環状RGDペプチドで検討した。合成した表面修飾金ナノ粒子に対し、211At標識化を行った。211At標識化は、水溶液中、室温で5分程度振とうすることにより、9割以上の高い収率で進行した 。得られたナノ粒子を用いて、細胞内在化、細胞傷害活性を評価した。さらに、PANC-1 (ヒト膵がん細胞株) 移植マウスモデルに静脈投与し、薬剤の体内分布と腫瘍成長抑制効果を検討した。In vitroにおいて、ペプチド修飾金ナノ粒子を用いることで、顕著な細胞内在化の促進が確認できたとともに、顕著な細胞傷害活性の亢進が見られた。In vivoにおいては、5 nmと30 nmの211At標識mPEG修飾金ナノ粒子を比較したところ、若干ではあるが、5 nmのほうが腫瘍への集積性が高いことが分かった。そこで、5 nmの211At標識H16修飾金ナノ粒子および211At標識RGD/H16修飾金ナノ粒子の体内分布を続けて評価した。その結果、予想に反して薬剤の肝臓集積性が高いという結果となった。体内分布の結果より、5 nmの211At標識mPEG修飾金ナノ粒子が最も期待できる薬剤となりえることが分かった。そこで次に、抗腫瘍効果の評価を行った。211At標識薬剤をPANC-1移植マウスに尾静脈投与し、腫瘍サイズおよび体重変化の経過観察を行った。その結果、コントロール群の腫瘍は順調に成長を続けた一方で、薬剤投与群では、投与28日後でも腫瘍の増殖はほぼ見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、211At標識機能性金ナノ粒子の合成に成功した。最も腫瘍への集積性の高かった5 nmの211At-AuNP-S-mPEGでも、2%ID程度である。すなわち、211Atは非常に少ない放射能で、極めて高い抗腫瘍効果が得られることが分かった。これは、薬剤がEPR効果により腫瘍に集積した後、何らかの作用によりがん細胞内への取り込が起こっていることが示唆される。薬剤の細胞内在化により、DNAに対し至近距離から高エネルギーのα線を照射できるため、より効率的にDNAの破壊が起こり、腫瘍の成長を阻害したと考えた。投与後に大きな副作用も認められなかったことより、211At標識金ナノ粒子が、画期的な新規α線核医学治療薬剤になりうることを示した。本研究課題に関する論文が1報受理された。
今後は、新しい合成法を用い、よりよいがんターゲティング性があると肝臓集積性が低い機能性金ナノ粒子を合成する予定である。また、細胞および動物実験により、新金ナノ粒子のがん治療効果を調べる。臨床応用に適した211At標識機能性金ナノ粒子のスクリーニングを行う予定である。
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The Journal of Biochemistry
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Pharmaceutics
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