研究課題/領域番号 |
22J10867
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
杉本 馨 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | PICシミュレーション / 輻射プラズマ / 線形Breit-Wheeler過程 / 高強度レーザー |
研究実績の概要 |
当該年度では当初予定していた通り、高強度レーザーで駆動される非平衡輻射プラズマの形成過程を明らかにするため、既存のParticle-In-Cell(PIC)コードPICLSの拡張を行った。具体的には、2つの高エネルギー光子同士が衝突することで電子陽電子対生成が引き起こされる線形Breit-Wheeler(BW)過程の数値アルゴリズムをコード内に組み込んだ。線形BW過程は多量の高エネルギー光子を伴う非平衡輻射プラズマの構造形成の理解には重要な現象であり、実験的な検証が続けられている。 本研究は米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のArefiev准教授の研究グループとの共同研究として展開され、先方の先行研究の結果と照らし合わせながら、PICコードを構築した。これによりガンマ線の消滅から陽電子の生成・加速までを自己無撞着にシミュレーションすることが可能となった。 拡張したPICコードを用いて、線形BW過程の実験検証を念頭に置いた高強度レーザープラズマ相互作用のシミュレーションを行った。ターゲットとして臨界密度程度のカーボンプラズマを想定し、フェムト秒ペタワットレーザー光を照射した。レーザー光が伝搬する際に電子流が駆動されることでプラズマ中に磁場チャネルが自己生成される。この磁場に加速された電子がレーザー進行方向にガンマ線を輻射する。一方でレーザーフロントではレーザー光子圧によって電子とイオンの電荷分離が形成され、準静的縦電場が発生する。この電場によって、電子がレーザー進行方向とは逆向きに加速されその後レーザー光に反跳される。この時、レーザー進行方向とは逆向きに硬X線が放出される。上記のガンマ線と硬X線が衝突することで線形BW過程により陽電子が発生する。陽電子は準静的縦電場から定常的な加速を受けてGeVのエネルギーにまで到達し、発散角が10度程度の高い指向性を持つことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、高エネルギー光子の衝突による対生成過程をPICコードに組み込むことで高強度レーザー駆動高温プラズマ中での輻射スペクトルの評価を行う手筈になっていた。当該年度では予定通り、既存のParticle-In-Cell(PIC)コードPICLSの拡張を行った。具体的には、2つの高エネルギー光子同士が衝突することで電子陽電子対生成が引き起こされる線形Breit-Wheeler(BW)過程の数値アルゴリズムをコード内に組み込んだ。これにより、線形BW過程に伴う硬X・ガンマ線のスペクトルの影響を調査できるようになった。 この研究内容は国内外の学会にて発表されており、一定の評価を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
現在開発している輻射輸送PICコードにより、レーザー加熱による重金属プラズマの形成過程(電子温度、電離度、荷電粒子密度の時間発展)を解明する。形成されるプラズマの輻射源としてのサイズ・輻射スペクトル・エネルギー変換効率を、レーザー照射条件(強度、パルス長)、ターゲット条件(材質、厚み)を変えて解析し、依存性を明らかにする。輻射輸送を含めたPICコードにより、非平衡輻射プラズマの形成過程を解明し、実験条件をデザインすることで輻射源の開発に貢献する。
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