本研究の目的は数値シミュレーションを用いて、高強度レーザーで駆動された高温輻射プラズマの形成過程を理解し、最先端のレーザー装置が作り出す光から量子線への最大の変換効率を達成するための条件を導出すること、および次世代のレーザー装置によるガンマ線生成過程の評価を行うことである。最先端の高強度レーザーであれば物質を瞬時に電離し、高温プラズマへ遷移させることができる。プラズマ中では高温電子の衝突・散乱により硬X線やガンマ線が発生するため、これらを高輝度量子線源へ応用することが期待されている。 しかし、高強度レーザーで駆動されるプラズマ中での輻射エネルギーの流れを含めた形成過程は複雑であり、実験的な解析が難しく、未だ詳細は明らかとなっていない。また、高エネルギー荷電粒子から放出されるガンマ線などの高エネルギー光子は互いに一対一で衝突することで電子陽電子対へ変換されるため、輻射スペクトルの評価にはこの対生成過程を考慮する必要があると考えられる。 そこで本研究期間中に、既存のプラズマ粒子シミュレーションコードを拡張し、二光子の衝突による電子陽電子対生成過程(線形Breit-Wheeler過程)の数値モデルを組み込んだ。これにより、レーザープラズマ相互作用中での対生成による光子の消滅、陽電子の発生場所、加速機構の解析が可能となった。 これまでに行った計算では、臨界密度程度のカーボンプラズマに対し超高強度レーザーを照射した。レーザーフロントで形成される電荷分離由来の縦電場によって定常的な加速を受けた陽電子は最大でGeV程度のエネルギーにまで加速されることが明らかとなった。この研究成果は実験室において高エネルギー陽電子を作り出す可能性を示唆している。 最終年度ではこの加速機構について複数の学会にて発表し、研究成果をまとめた学術論文のアクセプトを達成した。
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