2023年には電子ビームを用いてCP-Ti基材表面に作製したNiTiコーティングの微細構造を熱処理によって制御し、その微細構造の観察と物性分析実験を行った。具体的には、昨年の実験結果をまとめた方法を使って、NiメッキしたCP-Ti基材への電子ビーム照射により、Ti:Ni=50:50(at%)に近い組成のTi-richとNi-richのNiTiコーティングを形成した。そして、それらのコーティングに対し、900°Cでの溶体化熱処理と400°Cでの時効熱処理を施した。熱処理前後のコーティングの構成相をX線回折(XRD)で同定し、断面の組織を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。さらに、ナノインデンテーションを用いて機械的特性を評価した。XRDとSEMで試料の評価を行った結果、熱処理により、Ni-richコーティングでは、マトリックスであるNiTi相中に1 μm程度の大きさのNi3Ti相が散在したが、Ti-richコーティングは比較的均質な組織を呈した。ナノインデンテーション試験の結果、Ni-richコーティングへの熱処理の効果は不明瞭であったが、Ti-richコーティングの場合は熱処理後によって耐摩耗性の指標であるコーティングの硬さとヤング率の比が向上し、歪回復率も顕著に改善された。さらに、熱処理後のコーティングに超弾性がある可能性も示している。これらの実験結果は、電子ビーム溶解によってその場で合成されたNiTiコーティングの微細組織を熱処理によって調整することにより、コーティングの機械的特性を改善できる可能性の高さを示している。 以上のように、Ti/Ni粉末床の溶融凝固に代えて、Niメッキとその後の電子ビーム照射による、超弾性NiTiコーティングの新しい生成法を実証するとともに、超弾性高強度マルチ機能性コーティングのための複材特性制御に関する学術的指針を示すことができた。
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