2023年度は昨年度得たデータをもとに分析・考察および学会発表・論文執筆を進めた。 第一に、Web質問紙調査のデータ(既婚の男女計1159人)について、「感情作業」得点を従属変数とした2変量でのクロス集計やEricson(2005)のモデルにもとづく男女別の重回帰分析を行った。その結果、日本の感情作業をめぐる夫婦関係の実態の一部が明らかにできた。分析結果と考察をまとめ、2024年度の投稿をめざして論文1本を執筆中である。また、この結果をふまえて改良した質問紙を用いて、夫婦ペアでのデータを収集した。このペア・データでも同様の感情作業に関する仮説の検証を進め、個人単位だけでなく夫婦単位での感情作業の実態を明らかにできた。 第二に、長期的なパートナーシップをめざす20~30代のカップル10組への半構造化インタビュー調査から得られたペア・データを用いて、日常的なカップルの感情面での相互行為について「うれしかったこと」や「けんかしたこと」などの語りから質的分析を行った。その結果について、関西社会学会大会で口頭発表を行った。カップル間の日常的なコミュニケーションのプロセスと関係調整の実態、およびそこでめざされている関係性について明らかにした論文を2本執筆し、今後投稿する予定である。 第三に、夫婦の親密な関係における感情面での対等性について、「フェミニズム正義論」(有賀 2011)に着目する理論論文を執筆し、日本女性学会大会で口頭発表を行ったのち、日本女性学会の機関誌『女性学』に掲載された。 そのほか、家族問題研究学会でも先行研究レビューにもとづいた口頭発表を行った。以上の各研究内容の知見を統合し、現代日本における夫婦の親密性モデルの特徴を論じ、成人間の親密な関係における感情面での対等性とジェンダー平等について総合的な考察を行った。その内容をまとめた論文を執筆し、今後投稿予定である。
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