研究課題/領域番号 |
22J11759
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
保道 晴奈 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | スティグマ / インターセクショナリティ / 日常的相互行為 / ムスリム女性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、インターセクショナルな状況にあると考えられる日本のムスリム女性らが、どのようにして日常的相互行為を成立させているのかを明らかにすることである。彼女らがスティグマを複数抱える存在であると仮定した上で、その中でもとりわけマイクロアグレッションに相当する日常的な暴力の経験や、またそうした状況の中で行われる相互行為に着目する。ただし日常的に営まれるミクロな相互行為はそれを取り巻く社会的状況に影響を受けるため、前提として、行為者であるインフォーマントが「社会なるもの」や「公共なるもの」をどう捉えているかということと、彼らが見立てているそれらとの交渉のプロセスを明らかにする必要がある。さらに、マジョリティとは異なる規範や行為のパターンを有するマイノリティである彼女らが、日本の主流社会に対してどのような要求を持っているのか、さらにはなぜそのような要求を持っているのかということをも明らかにすることも研究目的の一つである。 2022年度は人生の中途でイスラームに改宗した日本人女性に対するインタビューを通じ、彼女らがそのマイノリティとしての多様な背景を理由に日常的相互行為において自身の信用が失墜しかねない場面に遭遇していることを明らかにした。さらに、そうした場面において自身のスティグマについての理解が不十分な者はスティグマを隠したり(パッシング)、それから目を逸らさせたり(カヴァリング)することができないが、スティグマについて熟知しているものは上記のような振る舞いが可能であることが明らかとなった。また、スティグマを複数抱える彼女らは自分の情報が相手にどのくらい知られているかということを考慮して、どのスティグマについてどの程度パッシングを行うか調整していることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本人ムスリム女性の日常的相互行為についてデータ分析を進めることは当初の想定通り行うことができているものの、論文の発表がやや遅れている。加えて、多くの日本人ムスリム女性が人生上の課題として子育てに取り組んでいることがインタビューの過程で明らかとなり、この側面にアプローチするためにムスリムとして日本で育てられた人々に関する調査が必要となった。この調査には着手しており、調査の進捗自体はおおむね順調だが、そもそも当初の研究計画で想定していなかった調査を行なっているという点で、研究全体としてはやや遅れがあると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後はムスリムとして日本で育った人々(ムスリム第2世代を含む)に対するインタビュー調査を継続するとともに、そのデータ分析を主に行う。インタビューはインフォーマントが子どもの頃から宗教的マイノリティかつ人によっては民族的・人種的マイノリティであるという、複数のマイノリティとしての条件を抱えて育ったことに着目するものであり、マイノリティとしての相互行為をどのように行ってきたかということを明らかにすると同時に、そうした相互行為の蓄積が信仰を含めたインフォーマントの現在のあり方にいかなる影響を及ぼしているかということを明らかにすることが目的である。分析概念としてはE. ゴフマンによる相互行為理論を援用する予定である。 調査においては想定するインフォーマントが多重にヴァルネラビリティを有する存在であることを考慮し、インフォーマントに対する直接の参与観察は行わない(ただしインタビュー中の身振り手振りや服装などを観察する予定である)。日本のムスリムがいかなる宗教的活動を行っているのかということを知るのを目的として、モスクやムスリム有志による行事や活動には参加するが、そうした活動はあくまでも予備調査とし、研究データを得るための調査活動とは位置付けない。
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