研究課題/領域番号 |
22J11931
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
特別研究員 |
海老原 慎也 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / Toxin-Antitoxinシステム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、腸管出血性大腸菌が保有するToxin-Antitoxin (TA)システムについて、我々が新規に同定したECs5400-5399の標的遺伝子の同定とECs5400トキシンが活性化される環境条件について解析し、細菌生理と病原性発現における役割を明らかにすることである。 まず初めに、RNaseトキシンと推定されたECs5400について、プラスミドを用いた強制発現によりその標的遺伝子の同定を試みた。RNA-seqの結果、全遺伝子5067個のうち、149個の遺伝子のRNAレベルが半分以下かつ統計学的に有意であった。これらの標的遺伝子がどのような機能を持った遺伝子であるか調べるため、遺伝子機能分類データベースであるCOGカテゴリーに基づき機能分類を行なった。その結果、G(炭水化物の輸送と代謝)に分類される遺伝子が多く含まれていた。これらの結果は、ECs5400トキシンが遺伝子発現を選択的に抑制し、遺伝子発現パターンを変化させることを示している。以上のことから、ECs5400をswpA(switching of gene expression profile)、ECs5399をswpBと名付けた。 続いて、SwpAトキシンを実際の菌内での発現レベルで活性化させた際の影響について調べた。Toxinの活性化はAntitoxinの分解によって引き起こされる。そこで、任意のタイミングでAntitoxinの発現を抑制する系を作成し、SwpAトキシンの活性化を誘導した。その結果、実際の発現レベルでは菌の増殖に影響せず、病原性遺伝子を含む一部の遺伝子発現レベルを低下させた。以上のことから、一部のTAシステムの機能は増殖抑制ではなく、遺伝子発現制御であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的であるECs5400(swpA)トキシンの標的遺伝子について、RNA-seqを用いた網羅的な転写産物解析によって標的遺伝子候補を同定し、遺伝子機能分類によってその共通性を見出すことができた。しかし、RNaseトキシンであるSwpAの認識配列について、標的候補遺伝子の配列比較からは同定することができなかった。また、細菌生理における役割と病原性への影響について、実際の菌内でのSwpA発現レベルを再現した実験ではTAシステムのToxinに共通して見られる増殖抑制という機能が観察されず、一方で病原性遺伝子を含む多数の遺伝子発現レベルを抑制することを明らかにした。これは世界的にも初めての結果であり、TAシステムの新たな機能を示す成果であると言える。以上のことから、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
TAシステムのToxinが活性化するためには、Antitoxinがストレス誘導性のプロテアーゼによって分解される必要がある。つまり、TAシステムが活性化されるためには、細菌が何らかのストレス環境に曝露されていると考えられる。これまでの研究によりswpABシステムが遺伝子発現パターンを改変する機能を持つことを明らかにしたが、未だこのシステムが活性化する環境条件は不明である。そこで、今後は本システムの活性化条件に注目し実験を行う。また、活性化するストレス条件をもとに、本システムが持つ細菌生理における役割を明らかにする。
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