本研究の目的は、腸管出血性大腸菌(EHEC)において新規に見出されたToxin-Antitoxin (TA)システム遺伝子swpABについて、細菌生理における役割と病原性への影響について調べることである。本年度は主にswpABシステムが活性化する環境条件について明らかにすることを目的に研究を行なった。まず初めに細菌を好気培養し経時的にswpABプロモーター活性を測定したところ、増殖相の後期において顕著に活性が上昇した。この上昇が好気培養による活性酸素種(ROS)の蓄積によるものと予想し、ROSの蓄積を阻害するチオ尿素(TU)を培地中に添加したところ、プロモーター活性の上昇が消失した。さらに、ROSの蓄積を誘導する薬剤であるノルフロキサシン(Nor)を増殖に影響しない濃度で培地中に添加すると、プロモーター活性が顕著に増加し、TUの添加により活性上昇が消失した。これらのことから、本システムはROSの蓄積による酸化ストレスによって活性化されることが示唆された。また、SwpA トキシンの直接的な標的であるtirについて、野生株とswpAB変異株においてNorを添加し酸化ストレスを誘導したところ、野生株ではTirの産生量が低下したのに対しswpAB変異株では産生量が変化しなかった。これらのことから、酸化ストレスに応答してSwpA トキシンが活性化されることが示唆された。前年度の報告によりSwpAは増殖に影響しないレベルで遺伝子発現パターンを変化させることが示唆されていることから、swpABシステムは酸化ストレスに応答し遺伝子発現パターンを改変することで、他の菌と比較して有利な生存をもたらす可能性がある。
|