研究課題/領域番号 |
22J13284
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石塚 茂宜 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 新型コロナウイルス / エピトープ / ワクチン / アジュバント |
研究実績の概要 |
本研究では、病原体が宿主細胞に感染した際に、実際に提示されるエピトープを同定する方法論の確立を目的としている。今回の研究では新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) を実例とし、感染細胞が実際に提示するエピトープと、それに対応するHLAの特定を目指す。本年度は系の構築にあたり、「抗原提示細胞の作製」と「解析ツールの充実」に取り組んだ。SARS-CoV-2感染にトロピズムを有するVeroE6/TMPRSS2細胞にCOVID-19の患者が有するHLAを個別に導入した。次段階として患者のHLAクラスI (最大6アリル) を共発現する細胞、すなわち「患者のHLAクラスI情報を投影する」抗原提示細胞を作製する予定である。この細胞と患者由来のCD8陽性T細胞をSARS-CoV-2の存在下で共培養することで、感染とそれに伴う抗原提示を簡便に再現できると考えられる。HLAによって提示されるエピトープの由来としてはSタンパク質をはじめ、Mタンパク質、Nタンパク質やそれ以外の多くの非構造タンパク質も挙げられる。既に作製していたSタンパク質のエピトープ解析ツールに加えて、M・Nタンパク質についても同様のツールを作製した。本研究で得られる「実際に提示されるエピトープ」の情報は、今後のワクチン抗原の選択において有用である可能性がある。また、ワクチンが効果を発揮するには抗原と同様に、免疫応答を増強し方向性を決めるアジュバントの寄与も重要である。今後はウイルスに対する生体防御に有効である細胞性免疫を効率よく誘導するアジュバントの探索も視野に入れて研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
病原体の感染細胞が実際に提示する抗原を同定する実験系の構築のため、まず抗原提示細胞の作製を進めた。SARS-CoV-2感染にトロピズムを有するVeroE6/TMPRSS2細胞を抗原提示細胞として選択し、COVID-19患者のHLAを個別に導入した。HLAによっては導入効率が低いものもあり、対象としたHLAの発現を確認するまでに時間を要した。今後は1人の患者のHLA (最大6種類) を共発現する細胞の樹立に向けて、最適な導入方法などの検討を行う。T細胞受容体 (TCR) のエピトープを同定するツールの充実を図り、従来のSタンパク質に加えて、Mタンパク質・Nタンパク質の「マトリックスペプチドプール」を作製した。これによって同定できるエピトープの幅が大きくなった。抗原提示細胞の作製を急ぎ、感染実験に進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、最大6アリルある患者HLAクラスIを1つの細胞にまとめて導入する。これにより「患者の免疫背景を反映した抗原提示細胞」が作製できる。この細胞にSARS-CoV-2を感染させ、提示された抗原によって活性化するCD8陽性T細胞がもつT細胞受容体 (TCR) の配列情報を、単一細胞RNA/TCR解析で特定する。このときに、活性化したT細胞が少ない、または、活性化の程度が低いなど抗原提示の効率が低いことが考えられた場合、T細胞の活性化に補助的に作用するh4-1BBLを導入することも視野に入れている。その後、特定したTCRを再構成したレポーター細胞・HLAクラスIを個別に発現したHEK293T細胞・SARS-CoV-2を構成するタンパク質のペプチドプール、マトリックスを用いて、実際に提示されているエピトープや対応するHLAを同定する。ここで同定されたエピトープは、ワクチン抗原の選択に有用な情報を与える可能性がある。また、ワクチン効果の発揮には抗原と同様、免疫反応の方向性決定に寄与するアジュバントも重要であることが知られているので、今後はウイルス排除に有効にはたらく細胞性免疫を効率よく誘導するアジュバントの探索も視野に入れて研究を推進する。
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