研究課題/領域番号 |
22J13377
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
特別研究員 |
小野 良輔 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍溶解性ウイルス / アデノウイルス / 腫瘍溶解性アデノウイルス / NK細胞 / がん免疫 |
研究実績の概要 |
近年、新たながん治療法として大きな注目を集めている腫瘍溶解性ウイルスの魅力の一つとして、抗腫瘍免疫の活性化が挙げられる。これまでに所属研究室では、従来の腫瘍溶解性アデノウイルス(OAd)が有する抗腫瘍効果の減弱が懸念される性質を克服可能な新たなOAdとして、ヒト35型アデノウイルスを基盤とした35型OAdの開発に世界に先駆けて開発に成功した。一方で、35型OAdによる抗腫瘍免疫の活性化機構は、明らかになっておらず、今後の臨床応用に向けて解析が急がれる状況である。そこで本研究では、35型OAdによる抗腫瘍免疫の活性化レベルおよびその誘導機構を解明することを目的に、自然免疫応答、その中でも特にナチュラルキラー(NK)細胞に注目した解析を行う。2022年度は、①35型OAd投与後の腫瘍内へのNK細胞の浸潤とそのNK細胞の活性化状態について解析すること、②35型OAdによるNK細胞の活性化および腫瘍内浸潤の促進が抗腫瘍効果に及ぼす影響を明らかにすることを計画していた。ヒトがん細胞を移植したヌードマウスならびに、マウスがん細胞を移植した正常な免疫を有するC57BL/6マウスにおいて、35型OAdを腫瘍内投与することで、活性化したNK細胞の腫瘍内浸潤が顕著に促進されていた。またNK細胞に対する抗体である抗GM1抗体を静脈内投与することでマウス体内からNK細胞を除去し、35型OAdによる抗腫瘍効果におけるNK細胞の寄与度を検討した結果、ヌードマウスならびにC57BL/6マウスにおいて35型OAdの抗腫瘍効果はNK細胞を除去することで大きく減弱した。2022年度は、35型OAdの腫瘍内投与により活性化したNK細胞の腫瘍内浸潤が促進されること、ならびに抗腫瘍効果にはNK細胞が重要な役割を担っていることを明らかにした。本結果は、がん免疫療法におけるNK細胞の有用性を示すとともに、35型OAdの臨床応用に向けた重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究計画として35型腫瘍溶解性アデノウイルス(OAd)投与後のナチュラルキラー(NK)細胞の腫瘍内浸潤の促進と活性化機構の解析と抗腫瘍効果への寄与を明らかにすることを掲げていた。ヒト肺がん細胞を皮下移植したBALB/c Slc-nu マウス(ヌードマウス)ならびにマウスメラノーマ細胞を移植した完全な免疫機能に有する野生型マウス(C57BL/6J)において、35型OAdを腫瘍内投与後のNK細胞の腫瘍内浸潤をフローサイトメトリーならびに腫瘍内の遺伝子発現解析により評価した。その結果、35型OAdを投与することにより、腫瘍内へのNK細胞の浸潤が増加していること、浸潤してきたNK細胞が活性化していることが観察された。またNK細胞に対する抗体であるanti-GM1抗体を前投与することでNK細胞を取り除いたマウスでは、35型OAdによる抗腫瘍効果が著しく減弱した。そのため、35型OAdの腫瘍内投与後の活性化したNK細胞の腫瘍内浸潤の促進は、35型OAdの抗腫瘍効果において大きな役割を担っていることが明らかになった。以上のことから、計画していた実験を全て実施し、研究結果も仮説に則ったものであったことから、本研究計画は、おおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、①Toll様受容体(TLR)9やI型インターフェロン(IFN)などの免疫関連遺伝子をノックアウトしたマウスを用いて、35型腫瘍溶解性アデノウイルス(OAd)によるナチュラルキラー(NK)細胞の活性化誘導メカニズムの解明および②ヒト免疫細胞における35型OAdによるNK細胞の活性化効果など臨床応用に向けた検討を実施する。具体的には、TLR9やI型IFN受容体ノックアウトマウスにマウスメラノーマ細胞を移植し、35型OAd投与後のNK細胞の腫瘍内浸潤とその活性レベルならびに抗腫瘍効果を評価する。次にヒト末梢血単核細胞に35型OAdを作用させ、ヒト末梢血単核細胞中のNK細胞の活性化についてフローサイトメトリーを用いて評価する。また広く用いられているヒト5型OAdにおけるNK細胞の活性化能も検討する予定である。
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