慢性腎臓病発症予防法の開発を目的とし、腎線維化関連因子である転写因子OASISの腎疾患における役割解明と、OASISを標的とした治療薬の創製に取り組んでいる。 令和5年度は、前年度から引き続き腎障害早期におけるOASISの役割解明に取り組んだ。野生型マウスに糖尿病を誘発するStreptozocin (STZ)を投与し、障害早期から慢性期に至るまでの各タイムポイントでOASISの発現及び組織内局在を評価した。免疫染色の結果、障害早期にあたるSTZ投与2週後の腎臓で、一過性にOASIS発現筋線維芽細胞が増加することを見出した。そこで腎線維芽細胞株NRK49F細胞に高グルコース処置を行ったが、筋線維芽細胞への分化及びOASISの発現は誘導されなかった。この結果から、障害早期にみられるOASIS発現筋線維芽細胞の増加は、細胞周囲のグルコース濃度の上昇のみによるものではないことが示唆された。STZ投与2週目では、腎組織におけるTgf-b1の遺伝子発現にも増加傾向がみられており、これらのサイトカインや何らかの分泌因子によりOASIS発現筋線維芽細胞の増殖が誘導されている可能性が考えられる。 さらに、OASISを標的とする治療薬の開発にあたり、OASISが標的となりうる腎線維化以外の病態の探索を行った。CKD患者ではしばしば高リン血症が問題となる。そこで、NRK49F細胞にリンを処置したが、OASISの発現に変化は見られなかった。一方で、ある腎構成細胞においては、高リン負荷によりOASISの発現が上昇することを見出した。当該細胞においてリンは機能障害をもたらすことが知られており、OASISが高リン血症に伴う腎障害に関与している可能性が考えられる。
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