研究実績の概要 |
ヒト培養細胞である293T/17細胞に従来においセンサー細胞で広く用いられてきたGCaMP6sと、新規に検討を行った蛍光タンパク質(jGCaMP7s, jGCaMP8s等)をそれぞれ導入し、イオノマイシンによる刺激で生じる蛍光輝度の変化を計測した。結果的には、においセンサー細胞に使用している293T/17細胞において、細胞内のCa2+濃度を計測するための蛍光タンパク質は従来用いられているGCaMP6sが最も適していると考えられた。 続いて、ヒト培養細胞を用いたにおいセンサー細胞の課題である検出感度の低さの原因の一つとして想定される細胞内のcAMP分解系やCa2+イオン抑制・排出系の阻害剤の効果を、センサー細胞をイソ吉草酸で刺激する際に同時に阻害剤を添加し、生じる蛍光輝度変化をプレートリーダーを用いて計測した。結果として、cAMPを分解するホスホジエステラーゼ阻害剤である3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)は80 μM 前後でOR応答に由来する蛍光シグナルを数倍に増強した。さらに、AC IIIを抑制するカルシウムカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ阻害剤であるKN-62も僅かに同シグナルを増強した。一方でCa2+イオン、Na+イオン交換ポンプ(NCX)選択的な阻害剤であるSEA0400は、センサー細胞の感度上昇に寄与しなかった。また、細胞外に細胞内Ca2+イオンを排出するPlasma Membrane Ca2+ ATPase (PMCA)選択的な阻害剤であるCaloxin2A1も同様に、センサー細胞の感度上昇に寄与しなかった。 これらの結果より、細胞内のcAMP分解系やCa2+イオン抑制・排出系に対して抑制・阻害効果を示す化合物によるOR応答由来蛍光シグナル増強は一定の成果を示すが、細胞内Ca2+イオン濃度に影響を与えるすべての系で効果が期待できるとは言えなかった。
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