本研究は、フレキシブル有機薄膜トランジスタにおける感光性絶縁膜のUVパターンを利用して任意箇所のトランジスタの閾値電圧を制御することで、世界最低消費電力性能のポリマー絶縁膜を有するフレキシブル有機相補型増幅回路を実現し、ウェアラブル生体センサへ実装した。 ウェアラブル生体センサは日常的に人の健康状態の理解を深めるために、様々な生体信号を装着感なく長時間モニタリングできる技術として注目が集まっている。信号の長時間モニタリングのためにはセンサの消費電力を最小限にすることが重要である。生体信号は種類によって周波数帯が異なるため、最小の消費電力で信号を処理するためには有機薄膜トランジスタの特性を同一基板内で調整する必要がある。しかし、これまで報告されてきた同一基板内での有機薄膜トランジスタの特性の調整技術は作製プロセス数が数から十数工程と複雑になり、特性の調整技術を用いた生体センサへの実装は実現されていない。 本研究では、感光性絶縁膜のUVパターンを利用することで任意箇所のp型n型の有機薄膜トランジスタの閾値電圧(オン電圧)を同一基板内で制御した。この技術を用いることで、単プロセスである光照射により最小消費電力4 pW、動作周波数100 Hz程度の性能を有する総膜厚2.5 μm以下の相補型のフレキシブル信号処理回路を実現した。また開発したフレキシブル信号処理回路を用いて生体信号において比較的高い周波数帯を有する筋電波形の測定が可能であることを実証した。これらの内容を、権威ある国際学術誌ACS Applied Electronic Materialsに投稿し、掲載された。またUVパターン精度をより高い空間分解能を持つフォトサーマル顕微鏡で評価した結果、パターン精度は約2 μmであることが示され、本技術が集積回路の作製に有用であることを示した。
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