研究課題/領域番号 |
22J14158
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
PRATIPPORNKUL RUENGRIN 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | child marriage / child rights / Thailand / child agency / human rights |
研究実績の概要 |
私の研究テーマは児童婚と子供の権利についてである。西洋的な視点では、児童婚は女性や子供の人権を侵害していると見ている。一見明らかに人権を侵害しているような習慣が、現地の具体的な文脈の中でなぜ維持されているのかということを明らかにするものである。それを明らかにするには、実際にタイ南部で児童婚がある村落を訪れて調査する必要があったが、コロナ禍が弱まってようやく調査を行うことができた。 その調査はアシスタントなどを雇った大規模なものであり、期間も一年近くにわたった。18歳未満で結婚した女性、その結婚相手、彼らの両親、村長、児童婚に関連のある人々を網羅的に取り上げて、インタビュー調査をおこなった。また、約350人の15-24歳の若者を対象にアンケート調査も行った。これだけの調査を行うには十分な熱意が必要であり、欠けることなく、最後まで調査をやり切った。 そして調査の結果得られた成果としては、現地での児童婚が人権侵害ではなく、子供の結婚を認めることが、子供の人権を守るためであることが挙げられる。どのような習慣も現実の社会の中では多様な文脈が関連する中で行われている。たとえばケースの中には、性交渉のあった未成年者同士をきちんと結婚させるために行われたものがほとんどだった。ここには、性に関わる活動に規律を与え、本人や生まれてくる子供に対して不測の利益侵害が生じないようにするという文脈も考えられる。このように結婚はさまざまな文脈が交錯する中で行われており、その中のある文脈には、これまで気づかれていなかった権利の保障が関わっていることがある。 このように、児童婚は複雑な文脈が現地にはあり、それを考慮に入れることなく機械的に児童婚を人権侵害と判断することはしない方がいい。実際に現地に訪れて長期的調査をすることによって、このように人権保護や介入の問題について議論を深めるきっかけを得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
科研費を申請した後に、予測していなかったことが起きていた。まず、現地調査先のタイ南部のsatun県では、紛争がなくタイ語が主語で私と同じ母語だったため思うように進んでいた。一方、マレー語が主語で紛争地であるYala県の調査では予定通りに通訳のアシスタントを雇っていたが、村の部外者の私は厳しくチェックされて、アンケート調査や聞き取り調査にいたるまで、村の管理部の一人一人に対して説得するプロセスに時間が予想外にかかった。また、調査先に滞在中に、強風や洪水のが頻繁に起きており、インタビュー対象者に会う日程を大幅に変更することになり、村人は自然災害のことでいっぱいになりアンケート調査に協力する余裕がなくなった日々が続いていた時期があった。そのため、調査期間を予定より約2ヶ月延長せざるを得なくなってしまった。よって、テープの書き起こし、資料の翻訳、アンケートの分析など、現地で回収してきたデータの分析する作業が若干遅れている。 順調に進んでいるのは、分析し終えたデータに基づいて論文を筆記して、現在投稿しようとしている。また、課題研究に対する助言をもらうために、インドネシアやタイで行われるワークショップや学会に応募して受かったことも、予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、2022年4月から2023年1月にかけてタイ南部(主にYalaとSatun県)で実施した民族誌的調査、アンケート調査およびインタビュー調査のデータを整理し、分析する。本研究は「児童婚は伝統的習慣であり、女性や子供の人権を侵害している」という視点で児童婚をなくすべきかどうかを考えるのではなく、「結婚はその土地の文化や社会規範によって概念が様々であるため、普遍的なものではない」ということを前提として、どのようにして子供が結婚するのかを明らかにする。 タイ南部のイスラム教徒の結婚の承認において、一番重要な人物は宗教指導者である。その宗教指導者がどのように結婚を認めているかを把握するために、イスラム委員会による「イマームのガイドライン」などの資料を現地語から自分の理解できるタイ語に翻訳する。また、実際に18歳未満で結婚した女性やその結婚相手、その家族や村長などを対象に聞き取り調査の際に録音した音声データを文字に書き起こしし、分析する。 そして、これらのデータに基づいて様々な学会やワークショップで研究に対する助言をもらうために、5月はインドネシアのマラン大学、7月はタイのタマサート大学、そして10月はインドネシアのジョグジャカルタに渡航する予定である。また、研究課題の内容に基づいて、Sydney Southeast Asia Centreのthe 6th Conference on Human Rightsの学会誌に投稿する。さらに、Scopus Q1のランキングで開発学では有名な雑誌であるThird World Quarterlyに論文を投稿する。
|