研究課題
診断閾下自閉スペクトラム症(診断閾下ASD)は、ASDの診断基準を満たさないものの、他者の思考や感情を理解できず、コミュニケーションに困難を抱えやすい。コミュニケーション能力の発達に寄与するコンタクチン関連タンパク質様2 (CNTNAP2)遺伝子など、ASD関連遺伝子の関与が想定される。一方、生物学的中間表現型として脳画像が有用視されており、特に脳磁図(MEG)は脳活動時に伴う磁場の変化を非侵襲的に捉え、脳内ネットワークの機能的結合を定量評価できる。そこで、ASD関連遺伝子・社会的相互反応・脳内ネットワーク結合の関係性を解析し、診断閾下ASDを早期に発見し支援するための客観的指標を確立することを目的として本研究を計画した。当初は、遺伝統計学的解析において高い検出力が得られるように被検者を大幅に増やすことを目指したが、COVID19流行により実現できなかったため、当該年度は既存のゲノムと脳磁図のデータを解析した。言語発達に遅れのないASD児59名と定型発達児57名を対象とし、ASD児ではCNTNAP2の一塩基多型 (SNP)のリスクアレル保持者と受容言語能力の低下の関連を示した。このことから、ASD関連遺伝子が存在すると、CNTNAP2のSNPの受容言語能力への影響が大きくなる可能性が考えられた。また、ASD児46名と定型発達児31名を対象として、対人応答性尺度のスコアに応じて3群に分類し、周波数帯ごとに脳内ネットワークの結合性を解析した結果、特にデルタ帯域においてASD-Possible群はASD-Unlikely群よりも効率的なネットワークの指標であるスモールワールド性(SW)が有意に低かった。このことから、一般集団においてもASD-Possible群に該当する人では、デルタ帯域のSWが定型発達者よりも低いことが予想された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、CNTNAP2遺伝子のSNP解析から、ASDリスクアレルの有無と受容言語能力との有意な相関関係を見出した。加えて、周波数帯ごとに脳波信号から算出・定量化した脳内ネットワークの結合性を解析し、デルタ帯域の効率的なネットワークの指標が、対人応答性尺度のスコアで分類した3グループとの間に一部相関関係があるという結果を得た。これらの知見は、国内学会発表1件および英文原著論文発表2編として発表した。以上より、本研究は順調に進展していると考えられる。
次世代シーケンシング (NGS) 技術を取り入れたASD児及び定型発達児のゲノム解析を進めている。乳幼児から研究目的の採血はほぼ不可能であり、限られた量の唾液・頬粘膜細胞から作成したライブラリーでは良好なNGSのデータが得られていなかった。そこで昨年度は技術改良に努め、既に採取されていた88検体から良質なライブラリーを作成することに成功した。次年度は当該コホートにおいてASD候補遺伝子を網羅的に解析する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Neuropsychopharmacol Reports
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Frontiers in Psychiatry
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