研究課題/領域番号 |
22KJ2179
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 雅大 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | キタエフ磁性体 / 量子干渉 / 走査型トンネル顕微鏡 / 遍歴マヨラナ粒子 / マヨラナフェルミ面 |
研究実績の概要 |
令和5年度に実施した研究では、キタエフ磁性体α-RuCl3の格子欠陥周辺において、走査型トンネル顕微鏡によって観測された、格子周期と非整合な量子干渉の起源について理論的に取り扱った。対象物質はモット絶縁体系で、モットギャップ中でキタエフスピン液体の実現可能性が探索されている。上記の実験では、α-RuCl3はグラファイト基盤上に置かれ、モットギャップ幅より大きなバイアス電圧下でのトンネル電流を用いた表面観察が行われた。その結果、格子欠陥の周辺で等方的に広がる量子干渉模様が観測され、その振動周期は格子定数と非整合であった。この振動現象は、フリーデル振動や電荷密度波等のよく知られた振動現象とは異なり本物質に固有の現象であると実験から指摘された一方で、その起源は未解明であった。以上の背景のもと、実験で観測された非自明な量子干渉の発現機構について、本研究ではマヨラナフェルミ面に散乱された遍歴マヨラナ粒子を考慮した解析を行った。時間反転対称性が破れていないキタエフスピン液体ではディラック型の分散を持つ遍歴マヨラナ粒子が本質的な準粒子である一方で、実験下では局所的に流れるトンネル電流と実験系のセットアップによって、時間反転対称性と空間反転対称性がともに破れる。この条件下ではディラック型の分散はエネルギー的にシフトし、K(K')点近傍にマヨラナフェルミ面を形成する。この効果を現象論的に取り入れ、マヨラナフェルミ面間のネスティングがある中で実空間での電荷揺らぎを計算した。その結果、格子欠陥の周辺で電荷揺らぎがオーダーで大きくなることを発見し、格子欠陥を原点として等方的に広がる電荷振動の再現に成功した。その振動周期は実験観測された格子定数と非整合な振動数とよく一致する。本研究成果によって、実験で観測された非自明な量子干渉に定性的な理解を与えることができ、共同研究としてまとめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度はキタエフスピン液体の格子欠陥(点欠陥)に着目し、格子欠陥中に束縛されたイジングエニオンがもたらすスピンテレポーテーション現象の解明と、走査型トンネル顕微鏡を活用した観測法の理論提案を行った。今年度に実施した研究内容は昨年度のそれと大きく関連したものであり、かつ実験グループとの共同研究でもある。これは当初予期していない成果ではあるが、最終的にキタエフ磁性体の格子欠陥に由来する新奇物理現象を理論的に解明することができた。この共同研究を契機として、キタエフ磁性体でのマヨラナ粒子探索に関して新しい研究課題が見つかり、当初の計画以上に発展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、当初の研究計画を変更して、キタエフスピン液体での格子欠陥として磁気不純物に着目する。予備研究はすでに実施しており、スピン-1/2より大きなスピンを磁気不純物として導入することで、基底状態でマヨラナ-ゲージ場結合粒子を束縛できることを解明している。この性質について、磁気不純物近傍で実空間平均場近似と自己無撞着方程式を与え、遍歴マヨラナフェルミオンの低エネルギー有効理論を構築する。加えて、不純物スピン周辺の磁気特性の解明にも取り組む。
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