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2022 年度 実績報告書

低酸素環境を認識して酸素と栄養を供給する人工毛細血管粒子の創製と厚い組織体の構築

研究課題

研究課題/領域番号 22J20533
配分区分補助金
研究機関大阪大学

研究代表者

富岡 大祐  大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2022-04-22 – 2025-03-31
キーワード足場材料 / 組織工学 / 過酸化カルシウム / ヒドロキシアパタイト
研究実績の概要

本研究は低酸素環境を認識して酸素と栄養の徐放を制御する人工毛細血管粒子の作製を目的とする。本研究では材料の酸素源として過酸化カルシウム (CaO2) に着目した。CaO2は水との反応で酸素、過酸化水素、水酸化カルシウムを生成する無機化合物であり、CaO2をハイドロゲルや高分子材料内に内包した酸素徐放材料が数多く報告されている。一方、CaO2は迅速な水との反応が原因で酸素の初期バースト放出が課題となっており、持続的な酸素徐放が困難であることが報告されている。そこで本研究では、まず初めにCaO2表面をヒドロキシアパタイト (HAp) 層で修飾することで水との反応を抑制し、持続的な酸素徐放が可能な酸素源の作製を行った。具体的には、CaO2と水との反応で生じる水酸化カルシウムがリン酸緩衝液 (PB) 中のリン酸と速やかに反応し、CaO2表面にHAp層を形成させる。走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光法、X線回折測定等から、PBに浸漬したCaO2表面にHAp層が形成されることが確認された。また、未処理のCaO2を内包したゼラチンゲルの酸素徐放期間はわずか3日間であったのに対し、HAp-CaO2を内包したゲルでは10日間にわたる長期的な酸素徐放が確認された。以上の結果から、HAp-CaO2は持続的な酸素供給が可能な酸素源であることが示された。さらに、HAp-CaO2を内包したゼラチンゲルを用いて細胞の低酸素培養を行ったところ、ゲルからの持続的な酸素供給によって低酸素環境における細胞増殖能の向上が確認された。これらの研究成果については現在論文を投稿中である。本研究で開発したHAp-CaO2は持続的な酸素徐放が可能な酸素源として、バイオマテリアル、組織工学、再生医療などへの応用が期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の研究計画では、材料の酸素源に酸素運搬ヘムタンパク質のヘモグロビンを利用する予定であった。しかしながら、酸素結合状態であるオキシヘモグロビンを37 ℃で3日間インキュベートしたところ、酸素結合能を持たないメトヘモグロビンに自動酸化することが吸光度測定から明らかとなった。したがって、低酸素環境を認識して酸素を供給する前に、ヘモグロビンの酸素供給能力が失われることが懸念される。このような背景から、本研究では新たな酸素源として過酸化カルシウム (CaO2) に着目した。CaO2は迅速な水との反応が原因で酸素の初期バースト放出が課題となっており、持続的な酸素徐放が困難であることが報告されている。そこで本研究では、CaO2表面をヒドロキシアパタイト (HAp) 層で修飾することで水との反応を抑制し、持続的な酸素徐放が可能な酸素源の作製を達成した。さらに、HAp-CaO2を酸素源に用いた材料からの酸素供給が、低酸素環境における細胞増殖能の向上に寄与することも確認された。酸素源に関する評価と二次元細胞への酸素供給の評価が完了したことから、現在までの研究進捗状況はおおむね順調であると考えている。

今後の研究の推進方策

今後の研究では三次元組織体構築への応用を行うために、HAp-CaO2を過酸化水素分解酵素のカタラーゼとポリリシンのLayer-by-Layer (LbL) ナノフィルムでコーティングした酸素徐放マイクロ粒子の作製を行う。酸素徐放マイクロ粒子の酸素放出挙動、過酸化水素分解能、細胞接着性を評価したのち、細胞と粒子を用いて厚い三次元組織体の構築を行う。作製した組織体の組織像観察、細胞生存率測定から材料の酸素供給が三次元組織体の構築に与える効果を評価する。
酸素徐放マイクロ粒子に低酸素環境認識能を付与するために、pHに応答して酸素透過能が変化する薄膜の作成を行う。キトサンの第一級アルコール部位をエステル化してアセチル基を導入した側鎖修飾キトサンを合成し、側鎖修飾キトサンとポリグルタミン酸を基板へ交互に浸漬したLbL薄膜を作製する。LbL薄膜を作製した後、アセチル基同士を弱酸性環境で開裂するヒドラゾンで架橋し、正常酸素環境 (中性環境) における優れた酸素透過防止能と、低酸素環境 (弱酸性環境) を認識した酸素徐放を確認する。作製したLbL薄膜が酸素透過防止能を示さなかった場合、酸素源に利用しているCaO2は水との反応で酸素を生成するため、pHに応答して疎水性が変化する薄膜の材料設計を行う。
さらに栄養素としてグルコースに着目し、グルコース源を内包したハイドロゲルからのグルコース放出挙動を評価する。グルコース源を内包したハイドロゲルとグルコースを含まない培地を用いて細胞培養を行い、材料からのグルコース供給が細胞生存率に与える影響を評価する。酸素源とグルコース源を内包したマイクロゲルをpH応答性の薄膜で修飾した人工毛細血管材料を作製し、人工毛細血管材料が細胞や三次元組織体構築に与える影響を評価する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2022

すべて 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)

  • [学会発表] 持続的な酸素徐放が可能な細胞足場材料の創製と組織工学への応用2022

    • 著者名/発表者名
      富岡大祐、藤田聡史、松崎典弥
    • 学会等名
      第20回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会
  • [学会発表] 過酸化カルシウム表面のハイドロキシアパタイト形成による酸素徐放制御足場材料の創製2022

    • 著者名/発表者名
      富岡大祐、松崎典弥
    • 学会等名
      第68回高分子研究発表会 (神戸)
  • [学会発表] 過酸化カルシウムの表面制御による酸素徐放制御足場材料の創製と組織工学への応用2022

    • 著者名/発表者名
      富岡大祐、松崎典弥
    • 学会等名
      第51回医用高分子シンポジウム
  • [学会発表] Development of oxygen releasing cell scaffolds and evaluation of its effectiveness on cell viability under hypoxic environments2022

    • 著者名/発表者名
      Daisuke Tomioka, Michiya Matsusaki
    • 学会等名
      第71回高分子討論会
  • [学会発表] Sustained oxygen release from hydroxyapatite coated calcium peroxide scaffold for tissue engineering2022

    • 著者名/発表者名
      Daisuke Tomioka, Michiya Matsusaki
    • 学会等名
      7th Int'l Conference on Tissue Engineering in conjunction with the 5th Int'l Conference on Regenerative Biomedical Materials
    • 国際学会
  • [学会発表] Fabrication of cell scaffold capable of sustained oxygen release by hydroxyapatite formation on calcium peroxide2022

    • 著者名/発表者名
      Daisuke Tomioka, Michiya Matsusaki
    • 学会等名
      TERMIS-AP 2022
    • 国際学会

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公開日: 2023-12-25  

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