研究課題
本年度は全光量子中継に関連する以下の二つの研究を行った。(1) Tandem type-2疑似位相整合PPLN導波路を設計した。この導波路は偏光自由度で量子的にもつれた光子対を作る際に、サニャック干渉計のような大規模な光学回路を必要としないため、自発的パラメトリック下方変換(SPDC)を用いて大規模な量子もつれ状態を作る際に有用であると考えられる。さらに、設計した導波路を用いた偏光自由度での量子もつれ光子対源を二個作成した。それぞれの光子対源を780 nmの連続光レーザーで励起して発生した光子対の状態を、量子状態トモグラフィを用いて測定した。その結果、これら2台の光子対源から発生した光子対と理想的な偏光量子もつれ状態との忠実度は、どちらの光子対源においても90%を超えており、偏光自由度で強く量子的にもつれた状態であることがわかった。今後はこの作成した光子対源から発生した伝令付き単一光子同士のHOM干渉を観測することを目指す。(2)近年量子鍵配送(QKD)プロトコルの研究は長年研究されてきたpoint-to-pointのプロトコルを超えて、通信する二者間に一つの中継地点を設けることで、通信距離に対する秘密鍵生成レートのスケーリングを向上させる研究が多く行われている。そこで、検出効率が1でない現実的な検出器を使用している下で、単一ノードで全光量子中継を行うプロトコルをNTT物性科学基礎研究所の東氏と共に提案した。さらに、このプロトコルがきちんと動作することを数値的に確かめ、通信距離に対して必要な光子数を見積もった。
2: おおむね順調に進展している
単一光路でエンタングルメント光子対を生成する導波路を設計し、連続光励起では十分高い忠実度を得られている。さらに、この導波路を用いた光子対源がすでに二つ立ち上がっており、Hong-Ou-Mandel干渉に向けた光学系もすでに組みあがっている。このことから研究計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。
以下の3点に取り組んでいく。(1) HOM干渉を観測するために、ポンプ光源を連続光からパルス光に置き換える。この際、タンデム型の構造に起因して、群速度遅延という現象が起きる。これは作成した光子対と最大エンタングルメント状態との忠実度を著しく下げることがわかっているため、まずはその補正に取り組む。具体的には、導波路の構成物質と同じ物質であるニオブ酸リチウムの結晶を購入し、各周波数帯においてH偏光とV偏光の光子の時間差を補正する。(2) こうしてパルス光においても、高い忠実度の光子対を得た後、HOM干渉の観測とそれを用いたエンタングルメントスワッピングを実証する。(3) 現在光源としては二台が立ち上がっているが、上記の作業と並行してさらに三台目の光源を立ち上げる。これら三つの光源をもちいて将来的には、通信波長帯かつリーフ付きの全光量子中継プロトコルの実証実験を行う予定である。
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