研究課題/領域番号 |
22J21080
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
沖田 和也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | Smoluchowski-Vlasov方程式 / 溶媒和ダイナミクス / エネルギー表示溶液理論 |
研究実績の概要 |
本年度は不均一溶液におけるダイナミクスの解析を目的に,エネルギー表示の新規ダイナミクス理論を定式化し,代表的な非平衡過程である溶媒和ダイナミクスへと適用した. 生体分子近傍や固液界面といった不均一系における分子ダイナミクスは生化学や光化学等の多くの分野において重要な過程である.これらの現象を分子レベルから理解するための方法論として,分子動力学計算による方法と統計力学理論による方法が代表的である. 一般に,分子間の相対的な運動を取り扱う際には分子の相対位置と相対配向の合計6次元の情報が必要であるが,このような高次元の変数をあらわに扱うことは非常に困難である.そのため,先行研究では配向を平均化する方法が用いられてきた.しかしながら,配向の平均化によって,不均一系や複雑分子の取り扱いは困難となる.そこで,本研究では平衡溶液論の1つであるエネルギー表示溶液理論に着目した.エネルギー表示溶液理論では分子の相対配置と相対配向を分子間相互作用ポテンシャル(エネルギー座標)に射影することで次元削減を行い,エネルギー座標上における分布関数を用いた定式化が行われる.本年度は従来のエネルギー表示溶液理論を非平衡過程へと拡張することを試みた. この研究により,非平衡統計力学の方法を用いれば通常のデカルト座標系における拡散方程式と同様の方程式がエネルギー座標上でも得られることが示された.新たに得られたエネルギー座標上の拡散方程式にはインプットパラメータが含まれるが,これらは分子動力学計算から比較的容易に算出可能である.この新規理論を代表的な非平衡過程である溶媒和ダイナミクスへと適用することで新規理論が長時間領域のダイナミクスを記述可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定はエネルギー表示における新規ダイナミクス理論を定式化し,溶媒和ダイナミクスの解析を行うことであった.新規ダイナミクス理論を定式化するために非平衡統計力学の方法であるZwanzig-Moriの射影演算子法を用い,エネルギー表示における一般化Langevin方程式を導出した.一般化Langevin方程式自体は厳密に成立する方程式であるが,ここに含まれる記憶関数を厳密に求めることが事実上不可能であるという問題点がある.そこで本研究では記憶関数に対して時間に対する粗視化であるoverdamped近似を行うことで,より取り扱いの容易な新規方程式(ERSV)を導出した.ERSVはエネルギー表示における拡散方程式であり,通常のデカルト座標系における拡散方程式と同様の解釈が可能である.新規理論の妥当性を検証するために代表的な非平衡過程である溶媒和ダイナミクスへの応用を行なった.その結果,新規理論は長時間領域のダイナミクスを記述可能であることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は新規理論を改善することで短時間領域の記述能力をさらに高めることを目標とする.新規理論は導出の際に時間に対して粗視化する近似(overdamped近似)を行なっており,短時間領域における記述は未だ十分ではない.そこで,今年度はこのoverdamped近似を改善し,短時間領域においてもより適切な記述が可能な理論的枠組みの構築を目指す.本年度はエネルギー分布関数についての一般化Langevin方程式を導出し,エネルギー分布関数に対する揺動力の時間相関関数に対してoverdamped近似することで新規理論を導出した.そこで,今後はこの揺動力の時間相関関数をより近似の少ない形式で扱うことができる理論を定式化する.
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