研究課題/領域番号 |
22J21499
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西尾 直樹 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | 統合情報理論 / 意識 / 認識 / 自己組織化 / 連想記憶 / 神経場 / 定在波 |
研究実績の概要 |
本研究は、脳の情報処理の機序を数理物理学的な側面から解明しようとしたものである。脳神経科学における未解決問題に、意識を統合する主体となる神経回路なしにどのようにヒトの意識は統合されるのかという問題がある。本研究は、大脳皮質の神経場を伝播する波が生じる定在波という物理現象を利用することで、先に述べた統合主体なしにヒトの記憶が統合され、認識が生じる原理を説明するものである。今年度は次のような成果を得た。1) 神経場における感覚信号の波面再合成によって、ヒトの記憶は統合される。2) 神経場における局所的な学習則が定在波の節を記録し、ヒトの認識を生じる。 1) について従来のモデルでは、ヒトの記憶の一部(部分記憶)を表現する定在波を内包する定在波が生じることで、部分記憶を統合した記憶の全体を想起することができるという数理的な枠組みが示されていた。今年度は、大脳皮質を想定した二次元神経場を伝播する波で部分記憶を統合した全体記憶を表現する定在波が生じることを計算機シミュレーションによって確認した。 2) について従来のモデルでは、双方向を伝播する波の位相差をゼロ化するという直交補空間学習が提案されていた。これはPredictive Codingでいうところの予測信号を教師として用いたHebb学習を包括する。これを二次元神経場へ応用することで、神経場の学習則として改めて定式化した。この学習則によって、位相空間上で神経細胞が集団で定在波の節を取り囲むように学習し、その集団が定在波の節を記録しているとみなせた。1によって統合され記録された定在波の節と後に生じた定在波の節が一致したとき、統合された記憶の同一性が成立して、ヒトの認識が成立したと考えることができる。 以上1及び2の計算機上での検証を行うことで、定在波現象と神経場の自己組織化によって、ヒトの記憶が統合され、認識が生じることがあることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、二次元神経場において記憶が定在波現象によって統合されるのかを計算機シミュレーションとして検証した。またその統合された記憶が自己組織的に学習されるのかを検証した。その結果、二次元神経場における波が重ね合わされて成立する定在波によって大脳皮質における記憶の統合が説明できることが示された。また、その時に波動現象の空間勾配を用いた自己組織的な学習によって定在波の節が学習され、統合された記憶が自己組織的に学習されることが示された。 しかし、これらの検証では初めから矛盾なく統合される記憶を扱っており、限定的な範囲に対する検証であった。当初の計画では、初めから矛盾なく統合されるのではない記憶、すなわち初めは統合する時に矛盾のある記憶を入力として扱い、自己組織的な学習によって記憶が統合されるようになるかどうかを検証する予定であった。したがって、進捗状況としてはやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
やはり自己組織的な学習則を構築することには、それなりに時間をかける必要がありそうだと考える。一方で本年度以降の研究計画に組み込んでいた、神経場における定在波の境界条件の解析や、マルチモダリティの相互予測性能の評価といった計画は、学習則の評価として学習則の構築と合わせて行う予定である。これによって、学習則の構築によって生じた計画の遅れを取り戻すことができるのではないかと考える。
|